以下は、「新建築住宅特集2020年5月号」掲載テキストより抜粋です
大地のような土間
子育て中の夫婦から両親と隣居し将来はジャイロキネシスの教室を開きたいと相談を受けた。敷地は緩やかな南斜面にあり、竹林や畑などに囲まれた自然豊かな農村部にある。道路側に両親の家が建ち、奥には職住一体で利用していた民家と工場の2棟が連なっていた。要望は思い入れある民家を改修することだったが、住めるようにするには相当手を加える必要があった。築38年の工場の鉄骨造の躯体は健全だった。外を覆っただけのラフな内部は、民家と隔壁なしの一室空間。異なる用途が土間で地続きになっていた。混沌とした大地のような土間からおおらかさが伝わってきた。要望と異なるが2棟のどちらかではなく、どちらも活かすことにこの家族とストックが余っていく農村の未来を感じた。
民家からサードプレイスへの改修では、最低限の耐震補強のみ施し、光と風の溜まる土間とした。観音扉の開閉で冬は風除室、夏は竹林と両親の家の間に風の道を開く。変動する周辺環境に応じる環境装置となる。また、来客との「縁側付き合い」や、両親も洗濯物を干したりできる多世帯暮らしの緩衝帯になる。
工場から住居への改修では、通り土間を工場内部まで貫いた。通り土間沿いに台所やアイロン台を配置し、 指状に壁をずらして建ちあげ家族の拠り所となる隙間の中に様々な居場所をつくる。がらんどうの工場内部は重い壁によって分節し、軽い空間の襞で連結する。
この土間が家族と一緒に時を重ね人と人を近づけて繋ぐ、「農の暮らし」の礎となることを期待している。
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