「筒」と「帯」が作り出す開放的な場
敷地は、都心から電車で30分程の住宅地の中にあるバス通りに面した一区画である。周辺は高層建築も少なく緑地も残され、バス通りに面して店舗併用住宅が並んでいる。通りから店舗を介して奥の住居につながる住宅形式の並びが、この場所に通常の住宅地とは異なる雰囲気を作り出している。敷地の三方は建物によって囲まれているが、通りをはさんで対面に果樹園が広がり、眺望が開けていることが魅力であった。
住人は車椅子で生活をする男性とその両親の3人である。大人3人の生活で個別の生活のリズムがありそれぞれの生活に距離が必要であること、両親が介護者であるということから3人で生活の場を共有することが、ともに重要な条件であった。また将来的には公共的なサービスを受けることや他者との協力も考えられることから通りとスムーズにつながる住空間が必要であると考えた。
以上のような条件に対して、箱型のシェルターの中を、通りから敷地奥方向に抜ける開放的な筒状の空間とそれに平行した閉じた帯状の空間という2種類の性質の異なる空間を組み合わせて、構成した。
「筒」は、敷地の奥から通りやその先の果樹園まで視覚的に抜けていて、通りが敷地の中に引き込まれたような開放的な生活の場所である。「筒」の中に各自の場所をコーナーとして設えることでそれぞれが距離を取ることができ、また「筒」の中には壁がないために全体を一体的に使うことができる。南北の大きな開口部により風が通り抜け、南北で質の異なる光が差し込むため「筒」は外のように明るく変化のある場所となる。各「筒」の側面・天井・床には小さい開口部(窓、トップライト、グレーチング床)が設けられ、側面方向への広がりや、「筒」同士のつながりを作り、「筒」の中に様々な場所を生み出している。
「帯」は、アルコブ、トイレ、収納等が機能的かつコンパクトに配置され、生活する上で必要な物によって占められている空間である。この「帯」には短辺方向の耐力壁が規則的に配置され、それによって「筒」の両端をすべて開口とすることが可能となった。設備配管配線類もこの部分に集約的に納めている。
シェルターの構法は外壁、屋根ともに集成材軸組の外側から工場製作された断熱サンドイッチパネルをシステマチックに取付け、基礎も全て断熱材で包むことで完全な外断熱を実現した。屋根、外壁は断熱パネルと外装材との間に通気層を設け、ダブルスキンとしている。また床暖房にアクアレイヤーヒーティングシステム(水蓄熱対流式床暖房)を使い基礎コンクリートにも蓄熱することで効果を高めている。室内は壁・床・天井全て構造用合板によって仕上げ、同一素材で構造体を全て隠すことで「筒」を強調しつつ、仕上げ面が極力背景となるように意識した。
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