基本設計を構想するにあたり、施主が大事に想う庭の木々と住まいの関係を大切にしたいと考えました。サクラ、ウメ、ボケ、ツバキなど、冬から春先にかけて花を咲かせる木々は、時に近くに寄って手に花を添え愛でたいと思うこともあれば、少し離れて屋内から静かに眺めることもあるでしょう。この曖昧で区切れのない距離感を住まいの中に取り込みたいと考えました。とりわけ庭奥にあるサクラの木は土地の分割でもひとつの基準となった小さな象徴的存在で、住まいの各所から望められるよう計画しています。
また、この家では施主がもっとも安らぎを得られる場として寝室を住まいの中心に据えました。その寝室の周囲を囲むように、着物部屋、図書室、キッチン、神棚仏壇と、住まいの空間が広がります。寝室を囲われた安心できる領域として確保し、サクラの木のある庭の南端まで、居間(食堂)、広縁、軒下、庭と段階的に屋外へと開かれます。特に適度に開放された広縁は中間領域として、日中の時を過ごすには一番心地の良い場所と考えています。一方で、 勾配のある天井は広縁から寝室に向かって奥にいくほど高くなり、最頂部に高窓を設けています。この北向きの高窓が住まい全体の明るさと抜けを保つと共に、室内の換気機能を果たします。間仕切りの少ないひと広間でつねに自然を感じ、花や木々との調和を意識した住まいは、四季折々の豊かな自然を詠い過ごした日本古来の住まい方にも通じています。