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Locomotive Hills の建築事例写真
Locomotive Hills
K2-DESIGN・ARCHITECT&ASSOCIATES
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「豊かである」ということ~その意味を考え続けながら取り組んできた建物である。
ひとことに豊かと言ってもその要素は様々な視点に鑑みる必要があり、同時に我々の建築に対する指針も常に問われ続けた。人と建物の関係性について、時に原点回帰しながら今という時代を見つめ、その考察を積み上げた結論がここにはある。
この建物はデイサービスセンターである。広島県福山市の市街地より車で北に10分程度、
緩やかな坂道の途中にあり、その先にはなだらかな森の稜線が続いている。敷地は東西に細長く、南北は民家が接近している。施設の性質上十分な駐車場を確保する必要があり、建物は敷地の東奥に配することにした。この配置は利便性のみに特化するわけではなく、施設の用途という側面で様々な可能性を広げている。
建物の形は「丘」を模している。先に述べた周辺風景(なだらかな森の稜線)との連続性を持たせ、町の中に緑の佇まいを表現。道路から建物までの「間」を持たせることによりそのインパクトをあえて軽減させ、人々の目に柔らかに映り込めるようにした。エントランスは緑の丘に吸い込まれるような造作を施し、室内廊下をL型に曲がった先に開放的な大空間が広がっている。この大空間は食堂ならびに機能訓練室として利用される。南北の前面硝子には縦型ブラインドを設置し、屋外フェンスに絡ませた植物とのバランスにより適度な採光を確保している。同時に開放的でありながら隣地からの視線を柔らかく遮る役目も担っている。天井部は勾配に沿って木の梁を施し、その曲線の連続性により奥行きを演出。木製の窓枠の硝子越しには屋上からしだれる蔦が風に揺れ、室内に居ながら深呼吸ができる空間づくりを適えた。また、各種の必要設備室は大空間を中心に東西に振り分け、良好な動線に配慮している。
エレベーターと室内階段からは屋上に出ることができる。建物の外部から連続している緑の丘は、そのまま屋上の庭に繋がる。木造構造であるこの建物にも、専用金属防水により屋上緑化を実現させることができた。耐荷量から専用土の厚みと植物の種類を決定、繊細な樹木は地下支柱によって安全に埋め込まれている。緩やかな勾配を利用しながら歩行路を設け、そこには細かな砂利状の溶岩石を敷き詰めている。この砂利の採用は、視覚的な美しさと共に、軽量および皮膚感の良さといった効能を考慮してのことである。靴底を通して優しい刺激があり、さらに踏み込みの柔らかは関節への負担が軽減される。微妙な勾配に曖昧な境界で植え付けた植物は大半が宿根草であり、職員の方々のメンテナンスの軽減を考慮した。また多種のハーブや花瓶の花も、庭から摘み取ってそのまま施設の生活に取り込むことができ、その小さな設えこそが室内外の空気を同化させる役割となる。さらに小さな畑と広々としたデッキは、利用者が自由に楽しめるスペースとなっている。
医師である施主様は、医療の現場における植物の効用に重きを置いておられた。心理的・生理的・身体的・環境的見地から、人の尊厳がどのように守られ慈しまれるべきかを深く考察され、その想いを我々に託して下さった。我々はそれを受け、視覚、触感、香りといった原始的な感覚の領域を大切にしながら施設の全体像を構築していった。
近年、ケア施設はその需要の高さから各地で数多く建設されている。限られた敷地の中に必要機能の確保とできるだけ多くの人数の収容を考えたい場合、その総面積に極力無駄を省いた設計を施していく傾向が見られる。この度我々が採択した建物の配置や施設全体の設えは、必要機能を満たしつつも「余裕」という観点から離れることがないよう進められてきた。「余裕」とは、人々の心にもたらされる「豊かさ」のひとつである。冒頭でも記載した通り「豊か」とは、個々様々な視点から幾通りもの捉え方ができるものである。心にもたらされる「豊かさ」は非常に曖昧で簡単に明言できるものではないが、建築という領域からこの施設を考えた場合、我々の追求した答えはこの建物のかたちに辿りついた。
施設は既に開所されており、利用者とスタッフの方々の明るい声が聞こえてくる。帰路につく女性が、スタッフの方の手を取りゆっくりとエントランスを歩いていた。訪問していた我々に「ここも歩くことで運動になるのですよ。」と話して下さった。エントランスからは比較的長い駐車場を抜けて道路に出る。しかし緑を眺めながら歩を進めるひとときは、散歩の気分になれる~とのこと。道路を歩きながらこの施設を見て歓声を上げる子どもたち。歩みを止めてしばし眺める多くの人々。そこには利用者やスタッフの方々との会話が生まれる場面も見られる。今後は「地域の方々と共に楽しめるイベント」の企画も考えられていくようだ。この施設が持つ可能性には夢がある。
この施設の名称である「ロコモティブ・ヒルズ」は「運動機能の丘」という意味に通じる。
四肢の訓練に特化するのみではなく「丘」を風景と捉えることによって、景観的豊かさも表現されている。この名称には施主様の深い想いが込められており、我々が建築を通してその一端を担うことがでたとしたら、それは大変幸せなことである。

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河口 佳介

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竣工年
2014
部屋数
指定なし
家族構成
指定なし
所在地
広島県