傾斜地に建つ小さな住宅である。敷地は町全体が丘となっており起伏に富んだエリアである。この敷地をとても気に入ったクライアントは、要望もとてもシンプルで「家のなかのどこにいても遠くの景色を楽しみたい」ということが中心だった。
敷地は平たい場所が2mほどの幅しかなく、それ以外はすべて斜めのあたかも崖のような敷地だった。できるだけ元の地形を活かしたいと考え、その斜めの地面を最低限掘ることで生活の場をつくろうと考えた。崖にある窪みや隆起から生まれる小屋のような、あるいは洞窟のような住処がぴったりくる。
立ちすぎてもいけないし、埋もれてもいけない。急な斜面に「最も効率よく座る」方法を模索することになった。
同時に自然の形に呼応するような不定形さを持った、あくまでも地形に応答する空間が敷地の魅力を引き出せると考えた。スタディの始まりは二つの正方形が連なった形だったが、前面道路の蛇行に合わせてその二つを回転させ、多角形のプランとした。
斜面に対しては最小限地面を掘って崖の中腹にベンチのような基壇を設けることにした。掘って作った崖の平場にテントのような、船の帆のような外皮をかけた。「ベンチ」は土留めを兼ねてRC造としているが、床が足りない分は鉄骨で延長している。鉄骨外皮の構造的なイメージは、多面体のような安定して閉じた系が崖にアンカーされることで開かれた系になる、というのが一貫したイメージである。
地面を掘って作られた内部空間の空中に、土から離れたまっすぐな水平面をかけた。土に張り付き囲われた生活の中でも時には地面から切り離された床が必要なのではないかと考えたのだ。この床面上のスペースはロフトのようなもので、さしあたって割り当てられている用途はないが、将来的には居室になるであろう。また建物全体を屋根/壁/床ではなく、基壇/外皮という大きな分節で捉えるためにこの床スラブの厚みにこだわり、仕上げまで含めて270mmと壁と同程度の厚みで納めている。階や間仕切などの明快な分節も極力なくした。
ガランとした空間を横切るデッキとそのレベル差によって抜ける視線が外の風景と繋がることを大切にした。敷地周辺の自然環境と同じように直截的に身体に呼びかけるような住宅であってほしいと考えている。
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