街の中心部、城趾から碁盤の目のように広がる街区に敷地はある。周囲の建物の多くが街のグリッドに正対した配置を取り、駐車場や庭などの余白がゆったりとした雰囲気をつくっている。敷地は比較的交通量の多い交差点の角地に位置し、建主からは防犯性や騒音対策として敷地を取り囲む高い塀が求められた。しかし単に閉鎖的な建物をつくるのではなく、街に対して大らかな関係性をもった建築を実現したいと考えた。まず、街のグリッドに対して45度の角度を振った基準グリッドを敷地全体に設定した。高さ方向はコンクリート型枠パネルの高さ900mmを基準とし、斜めの壁と2層のワッフル状のスラブをもつ建物を建ち上げた。角度を振ったことで窓からの景色が街区を抜け、外周に生まれた三角形の余白が隣家との適度な距離をつくる。建物内外に庭やテラスを挿入することで、街と繋がるさまざまな場所を散りばめた。
建物を構成する素材についても検討した。人は素材の肌理がつくる光の変化から時間を知覚する。その連続が暮らしや街の印象に大きな影響をもつということを前提に、感覚に作用する街角をつくりたいと考えた。建物の主要な仕上げは、光の変化をより豊かに伝える粗いコンクリート打放しと左官壁を採用し、素材を統一することで内と外の印象を近付けた。左官壁は、コンクリート型枠パネル1層ごとに内外を帯状に施工し、掻き落とし仕上げの表面を最終的に塩酸で洗い出すことで奥行きのある肌理をつくり出した。また、通常の施工手順とは仕上げの順序が異なるため、左官仕上げ後に木製建具や各所仕上げ工事が問題なく施工できるよう納まりを検討している。
アプローチから建物内部へ続く土間を抜けると、開かれた庭やテラスが暮らしと街の中に浮かび上がる。粗いコンクリート打放しと左官壁の肌理が建物の内と外を繋ぎながら、日々変化する光を街角に投げかけ続ける。
Photo|Akinobu Kawabe
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