56㎡の壁式構造の物件を、既存の間取りにとらわれずに目的に合わせた空間へ。
段差の操作、壁の仕上げの差異、窓の障子でつくる仕切りとつながりのある家。
text_ Yasuko Murata photograph_ Takuya Furusue
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キッチンの面材はホワイトアッシュ。家具的な素材で仕上げ、床のナラの無垢材や漆喰の壁・天井の印象と調和させている。造作したテーブルの天板はポリ合板。
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シキリの形
─鶴川のリノベーション─
神奈川県川崎市
〈設計〉青木律典建築設計スタジオ
住人データ
律典さん(39歳) 建築家
恵子さん(36歳) 設計士
計事務所を営む青木律典さんは、奥さまの恵子さんと2人暮らし。築35年、広さ56㎡の団地タイプの中古マンションを購入し、住居と事務所を兼用できるようにリノベーションをすることにした。
「仕事と生活の切り替えがはっきりできる空間にするため、仕切り方を工夫しました。玄関から突き当たりの壁まで土間をまっすぐつなげ、ワークスペースやダイニングの床を3センチ、寝室を10センチ高く段差をつけています」(律典さん)
土間では室内履きを利用し、段差ごとに脱ぎ履きすることで、気持ちを切り替える。寝室は垂壁も低めに設け、敷居をまたぐように入室することで奥まった印象を与えている。
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左・玄関から突き当たりの壁までまっすぐに延びる土間。視線を奥へ導く。手前右が水まわり、左がワークスペース。
右・ワークスペースの壁は白いペンキで塗装し、すっきりとした印象に。壁面には十分な量の書棚をつくり付けた。
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キッチンの壁にラーチ合板の棚板を設置。作家ものの器や選び抜いたツールをオープンに飾る。
間取りは、玄関を入ると左手にワークスペース、右手に水まわり。その奥にダイニングとキッチンが広がり、土間をはさんで寝室がある。ワークスペースの間口を仕切るラーチ合板の引戸は、キッチンの冷蔵庫まで隠せるサイズ。オープンにすれば、ダイニングの一部まで間仕切り壁が延長したような印象となる。
壁式構造のため、大幅な間取りの変更はできなかった。しかし、その条件を逆手に取り、壁を印象的に見せる仕上げを施し、それぞれの空間の雰囲気に変化をつけている。
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ダイニングから土間を介して寝室を見る。ワークスペースの引戸を開けるとラーチ合板の壁が間仕切りとなる。
たとえば土間と並行する壁は、陰影が美しいポーターズペイントの塗料でグレーに塗装。視線を奥へと誘い、奥行きを強調している。ワークスペースとキッチンの間の壁は、モルタル仕上げで躯体の印象を残しながら表情を整えている。さらに、ダイニングと寝室の壁・天井は漆喰をフラットな左官仕上げで塗った。
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水まわりにある浴室、洗濯機などはグレーの扉を壁のように設けて、普段は隠している。土間と並行するグレーの塗装壁から面が連なり、フラットな印象を与える。
「グレー、木、白のグラデーションで全体をまとめました。ダイニングは食事や生活の要の場所であると同時に、クライアントと打ち合わせをするハレの空間。素材感のある漆喰にこだわっています。また、ダイニングの窓には障子を設けて、ひとつの大きな窓として見せる工夫をしました」(律典さん)
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障子を効果的に使い、壁をフラットな面として見せる工夫を施した。ダイニングの障子は、横軸の組子を低めに設けることで重心を下げ、視線を低く促し、落ち着きのある印象をつくり出している。
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左・スペースを節約するため、トイレは洗面台と一体化させて設置。使用時にはカウンターを上げる。
右・普段はカウンターを下ろし、洗面台として広々と使用。洗濯物をたたむなど家事の際に便利。
組子を細く少なくした障子はモダンな印象。既存の間取りで部屋を分けていた痕跡である梁や窓の存在感を和らげ、キッチンとダイニングをひとつの空間にまとめている。土間や障子という日本の伝統的なツールを、コンパクトなマンションの空間に大胆に取り入れ、制限のある壁式構造の間取りを上手く操作した好例だ。
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左・ダイニングの障子の枠には5枚分のレール。ベンチのように座ることも可能。
右・寝室の窓は既存の障子を流用。ソファを置いてリビングのようにくつろぐ。
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洗面室、トイレ、浴室、洗濯機置き場が収まる水まわり。床はフレキシブルボードで、土間の延長のような雰囲気に仕上げた。植物を飾る場所としても使う予定。
Norifumi Aoki
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青木律典 1973年神奈川県横浜市生まれ。一級建築士。デザインファーム建築設計スタジオ卒業。日比生寛史建築計画研究所、田井勝馬建築設計工房を経て、2010年 青木律典建築設計スタジオを設立。新築からリノベーションまで幅広く活動中。11年よりデザインファーム建築設計スタジオ非常勤講師。
青木律典建築設計スタジオ
神奈川県川崎市麻生区岡上71・2
岡上住宅1・202
TEL 044・328・9572
FAX 044・328・9672
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※この記事はLiVES Vol.71に掲載されたものを転載しています。
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