横浜は天王町の丘の上に建つ、駅から遠く、築50年近いことで空室の目立つ賃貸マンションのリノベーションです。このマンションの所有者であり、事業主でもある不動産会社のリスト株式会社、不動産から施工までを行う株式会社NENGO、そして敷地からほど近いところにキャンパスのある横浜国立大学大学院Y-GSAの産学協働の取り組みとしてスタートしたプロジェクトです。まず第1フェーズとして、学生も含めたワークショップを開催し、基本構想を練上げました。そして第2フェーズとして実施設計へと移行し、私たちはこのタイミングからの参加となり、住戸の設計監理を担当しました。マンション全体のリノベーションコンセプトとしては、産学協働ワークショップ時点で提案のあった「まきこむチンタイ」というアイデアをベースにしています。住民同士はもちろん、駅前の商店街や大学など、地域資源の充実したこのマンションならではのコンセプトです。具体的にはまず、最上階の5階にペントハウスのように飛び出ていた住戸をマンションの住民が誰でも使える共用キッチンルーム(通称まきこむキッチン)に、屋上をルーフテラス(通称ボタニカルガーデン)として開放します。私たちの担当した各住戸の計画は、設計開始段階で空室となっていた16戸中6戸が対象となりました。予算や工期の厳しさ、今後の管理のしやすさ等を考慮し、各室に個別の特殊解を挿入していくのではなく、「丁寧に原状回復する」ということを提案しました。具体的には既存プランをトレースしながら暮らすのに不十分な部分を更新していき、その上で完成前からリーシングをして入居者が設計にも参加し、予算内で可能なプラン変更や仕様選択をできるようにしました。また、内容次第でDIYも可能としています。このプロセスを経ることで、これまで作る側から一方的に住まいを「供給する」という流れだった賃貸住宅におけるサイクルの編集を試みました。結果、キッチンルームの利用も含め、シンプルな中に自分らしい豊かな暮らしを求める入居者が集まりました。これまでのマンションの履歴(歴史)を可視化し、従来の賃貸マンションのサイクルをちょっとずらして別のサイクルに乗せることで、新しい価値を生み出すことができたのではないかと思います。今後も空室ができるごとに同じスキームでリノベーションをしていく予定です。
・賃貸住宅なのに、プラン変更や仕様選択ができる
・最上階に共用のキッチンルームがあり、使い放題
・大学との産学協働プロジェクト
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