若い夫婦は、子供が産まれたことが住宅の環境を見つめなおすきっかけとなった。
これは、築40年の東久留米市のマンモス団地内の1室の改修である。公営団地は、1951年に東京大学の吉武研究室によって設計された公営住宅標準プラン51C型を基本としているケースが大半である。当時の生活像としては「食べる場所と就寝する場所を分離すること(食寝分離)」「親子の就寝の場所を分離すること」が必要だと考え設計されたが、その後50年近くたち、現代の生活像への修正が必要なことは明白だった。
30代夫婦は、家族の息遣いの聞こえる生活を好み、自然素材を好んだ。個室が好まれた50年前とは逆に、個室はリビングの属室のように扱い、出来る限り一室空間として暮らせるような平面計画とした。
団地は、特有の隣棟間隔の広さや40年来の緑の発育のおかげで、採光・眺望といった条件は非常に優れている。計画はそういった利点を最大限に生かせるよう、南北通風を確保しつつ、壁天井を化粧合板張とすることで、温かみがありながら照度が向上するような色彩計画とした。また、水回りの設備は一新し、便利でメンテナンスのしやすいものとした。
新耐震設計基準前の建物であることや、エレベーターがないことなど、古さゆえのデメリットはあるが、コンパクトな空間の中に現代的な生活をうまく適応させて暮らしている親子3人(現在は4人)の距離感には、幸せな暮らしの本質があるような気がしている。
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