車いすの生活を余儀なくされた家族の住宅です。
健常者と同じ生活をストレスや肉体的な負担なくできるように、3階建ての住宅の1階部分を段差がなく室内の全ての場所に自由に行けるように計画しました。
車椅子からも家の中全体が見渡せるように家具の高さを決め、必要に応じて部屋を閉じれるように縦型のブラインドを使って開けたり閉じたり、光やプライバシーを彼女自身が緩やかにコントロール出来るようにしました。
料理好きな彼女に合わせたキッチン、一人で入れるお風呂と一人で使えるトイレ、手が届くスイッチ、球交換出来るように低く設置した照明器具。
緩やかな境界によって、彼女が健常者以上に自由に豊かに自立できる住宅を目指しました。
設計担当:納谷学、津田野恵
施工業者:
構造形式:既存鉄骨建物の3階建ての1・2階部分をリノベーション
(1階を住宅、2階を賃貸住宅)
延床面積 : 153.59m²(46.46坪)
1階面積 : 79.63m²(24.09坪) 2階面積 : 73.96m²(22.37坪)
受賞歴 :
第9回『あたたかな住空間デザイン』コンペ住宅デザイン部門 ブルー&グリーン賞
掲載誌 :
『新建築 住宅特集 2007.04号』
『日経アーキテクチュア2007.06.25号』
『NA選書 住宅プラン図鑑』
①車椅子でも自由に生活
大きなワンルームにして、キッチン、ダイニング、リビング、寝室、洗面所、浴室、打合せ室、全てのエリアの段差をなくし、車椅子で自由に簡単に移動できるようにしました。
②家の隅々まで見渡せ、行動できます。
車椅子に座って家全体が見渡せるように、全ての収納を視線より下にしました。
朝、ベットから起きると家の中全体が見渡せ、カーテンは部屋単位でつけ、サッシのクレセントの位置、コンセントやスイッチは彼女の身体と行動寸法に合わせました。
③洗面所で脱衣して、浴槽に入り、出て、身体を洗って着替えるまで、一連の彼女の動作をコンパクトにスムーズにして、彼女が自立して生活できるように設計しました。
例えば、寝ている時に誰かが訪ねてきても彼女はすぐに対応できないし、物音がした時には不安に襲われます。
そこで、家を大きなワンルームとして、プライバシーが必要なところだけ閉じることができるようにしました。
彼女は、すごく前向きな考え方の人で、私も心が救われました。
料理付きで、調理するとき鍋の底が見えるようにキッチンカウンターの高さを実際に一緒に測って調整したり、全ての行動を教えてもらいました。
彼女曰く、「車椅子は私の個性。」だそうです。
当時を思い出すと暖かい空気に触れられます。
住宅を計画する時には、必ずしもいい条件じゃなかったり、思いもよらないことが起きたり、諦めたりしなければならない事が起こるかもしれません。
それでも、前向きに考えると、やっぱり自分だけの家を持つことは、嬉しいものです。
住宅を造ることを楽しみましょう。
高山植物あるいはサボテン?
高山植物やサボテンは、厳しい環境の中でも強く生きて命を繋いでいき、美しい花を咲かせます。「西新井の住宅」は、厳しい現実の中で彼女の美しい花を見せてくれました。
津田野恵(元スタッフ)