気持ちよく勉強できる空間とはどうあるべきか。
個別指導の学習塾というと必ず付いて回る、背丈ほどのパーティションで分割されたブースが連なる空間は、閉塞的で必ずしも勉強に集中できないのではないか、と考えた。
人は、気にならないくらいのノイズに常に包まれている方が、集中力が持続できるという。
たとえば、公園で鳥のさえずりを聞きながら、大きく枝を張った木の幹に体を預けて、読書を楽しむ時。身体がリラックスした状態で、自然と意識を研ぎ澄ませていくことができる空間がそこにはある。そんな、開放的でありながら、意識を勉強に集中しやすい空間をつくることが目標となった。
椅子に腰かけて机に向かうという状態の身体にとって、最善の空間を模索した結果、天井からぶら下がった壁が空間を囲い込み、下半分はオープンな空間とするという、通常とは上下逆転の発想によって、「なんとなく包まれているけれど、開かれてもいる状態」をつくり出した。
頭上を壁によって囲われることによって、周囲の視線がブロックされ、集中しやすくなる。壁の内側(=ROOM)には家型の光膜天井を設置し、中に座ると柔らかな光に包まれ、さらに集中が高まっていく。ディテールの見えない抽象的な造形により、実体としての存在感が消え、「包まれている」という感覚だけがそこに浮かび上がるようにした。
オープンな下部空間には、スケルトンタイプの本棚(=SHELF)をパーティションとして設置し、開放感を損ねずにやわらかく視線を制御しながらブース同士を仕切っている。こちらは無垢の木と鉄の質感を生かし、実態としての手触りや暖かみが感じられるようにした。
こうした結果、ふたつの全く異なる層状の空間<「ROOMの層」と「SHELFの層」>が、FL+1420mmのレベルを境に重なっているような空間形式が生まれた。
立って歩く人と座っている人が見る風景はまるで違って見える。それぞれの姿勢・身体の状態によって全く異なる空間に身を置くことになる。デスクにつく際には必ず頭を下げて、垂壁をくぐることになり、この切り替えが授業への集中に一役買っている。
平面的には、リジッドな構成のROOMの層に対し、SHELFの層では本棚が縦横に走っている。ふたつの層が互いにずれ合うことで、そこに余白のような空間が生まれる。この空間が、物理的にも心理的にもゆとりを生んでおり、授業の合間に本を読んだり、自習コーナーとして利用する生徒が増えたとのことである。
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