60㎡のマンションをワンルームとして使い、
壁を設けず床の高低差で間取りをつくる。
木枠のガラスの引戸で抜けと光もキープする。
text_ Yasuko Murata photograph_ Takuya Furusue
目黒の家
東京都目黒区
〈設計〉田中裕之建築設計事務所
・住人データ
夫(29歳) 設計事務所勤務
妻(29歳) 主婦
玄関から続く土間に寝室があり、20センチの段差を上がるとダイニングとキッチン。さらに15センチの段差を上がるとリビングと個室という3層で構成される間取り。62㎡の空間をワンルームとして使い、壁で仕切らず、床の高さを変えることで空間を切り分けている。
「マンションの床に段差をつけるというアイデアは普通では考えられないことですが、バルコニー側の高いところから家全体を見下ろしたときに、とても快適な空間だと感じました」
そう話すのは、この家に住むOさんご夫妻。築50年という物件のレトロなスチールサッシが気に入り、リノベーションをすることにしたという。ご主人は自身も設計の仕事をしているが、あえて自分以外の感覚を取り入れるために、建築家の田中裕之さんに設計を依頼した。
「面積がコンパクトなので、壁で細切れに分けてしまうのはもったいない。南側のバルコニーから光と風を通す空間にしたいと考えました。リビングとダイニングは、木枠のガラスの引戸で必要に応じて仕切れるようにしています」(田中さん)
リビングとダイニングの家具の高さを調節することで、居心地の良さにつなげる工夫もある。たとえば、リビングに置いたソファベッドはフレームを造作して高さを上げ、ダイニングの椅子に座ったときの目線と合うように調整。テレビボードもダイニングの収納と天板の高さを揃えることで、見た目の印象をすっきりとさせている。
段差により生まれる床下の空間は、排水管を収めたり、引出し式の収納として活用。リビングと個室のあるバルコニー側の床は、掃き出し窓との間にスペースを設け、段差を活かした縁側のような場所としている。
「陽当たりの良いリビングに、植物をふんだんに飾り、屋外と屋内を曖昧にした温室のような空間として楽しんでいます」(ご主人)
仕上げは、床を杉フローリング、壁・天井は躯体の現しを基本とし、キッチン側の壁のみ白く塗装した。コンロを壁側、シンクをダイニングに向かって対面に配置したキッチンは家の中心的な場所。ステンレスの天板とシナ合板の面材でシンプルに造作している。
ひと続きに広がる間取りの効果により、木、コンクリート、植物が自然光で紡がれ、空間全体がやさしい印象にまとまっている。
〈物件名〉目黒の家〈所在地〉東京都目黒区〈居住者家族構成〉夫婦〈建物規模〉地上7階建て(5階部分)〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈建物竣工年〉1963 年〈専有面積〉62.00㎡〈バルコニー面積〉7.20㎡〈設計〉田中裕之建築設計事務所〈施工〉TANK〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉6ヶ月〈竣工〉2012年〈総工費〉800万円
Hiroyuki Tanaka
田中裕之
1976年生まれ。
2003年 慶應義塾大学大学院修士課程修了。
03 ~ 05年 CARBONDALE(フランス・パリ)勤務。
06年 田中裕之建築設計事務所設立。
田中裕之建築設計事務所
東京都渋谷区元代々木町4・6
TMKビル2F RAILSIDE
TEL 03・5738・2025
FAX 03・5738・2026
tanaka@hiroyukitanaka.com
www.hiroyukitanaka.com
※この記事はLiVES Vol.71に掲載されたものを転載しています。
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