「あんたがたどこさ、肥後さ、・・・・熊本どこさ、船場さ、船場山にはたぬきが・・・。」昔からある手まり歌。ここに出てくる船場は現在熊本市中心部にほど近く、江戸、明治期に建てられた町家が残るふるい町である。計画の敷地にも芸子さんの練習場として利用されていたと言われる町屋が存在していた。残念ながら設計依頼があった時点では既に取り壊されており、その勇姿を見ることは出来なかった。しかし、近隣に今も残る町家の景観と、隣接ビルにクッキリと刻まれた在りし日のシルエットでその形状を想像することが出来た。
住まい手は先祖伝来であるこの地域への愛着は深く、近年のマンション建設や駐車場化など整合性のない再開発によって壊されていくまちの風景に対して、まちなみを美しく保全するような建物であって欲しいとの要望であった。それであれば取り壊す前の古民家を再生保存する選択肢もあったかもしれないが、単なる懐古的な町並み保全に対して利用者が機能的にも充分満足出来る新しい建築でも町並みとの調和は計れるとの強い意識(町並みに対しての深い見識と愛着を持っておられた)からこの計画は始まった。
町家の敷地の典型である間口が狭く奥に長い形態に対して、道路側からマエニワ、トオリニワ、ヒカリニワ、ウシロニワを並べ、平面形態に町家の構成を導入している。1階はコンクリート壁構造で2階部分は方持ちで張り出したスラブに木造が乗る混構造を採用している。近接の建物に対してのプライバシー確保のためコンクリートの塀が敷地の長て方向一杯に設置し、一部がトオリニワとして半室内化している。ここは大型犬も利用する内外の曖昧なスペースで、準2世帯の共通の大きな玄関となっている。2階は中央の光りニワを挟んで、居間と個室を配置し、道路側のマエニワ上部にはFRPの格子で守られたデッキスペースを設置している。
解体前の民家に象徴としてあった木格子を再現するため、前庭と2階デッキにFRPの格子を採用している。これは道路を挟んで対面する高層のマンションに対して視線を制御しながらと採光と通風を確保している。
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