エントランスギャラリーのある住宅
空間の共有と共通経験
住宅街に建つ夫婦とその母親のための2世帯住宅である。
今回の計画では当初よりふたつの世帯のための住宅という意識はあまり強くもたなかった。だから通常2世帯住宅の計画をする時に考える2世帯の関係を物理的空間(くっつける、離す、くっつけながら離す……)に写しかえる操作を検討することはあまりなかった。
というのも、計画の当初で水墨画を描くことを趣味にしている母の大きな絵を飾る場をエントランスギャラリーとして置いたことで、母の絵を介するコミュニケーションが自然と生まれることが想定されたからである。
エントランスギャラリーは両世帯を空間的に共有させることに加え、自然光を利用し情緒的に仕上げることで印象深い共通経験をさせ世帯間により深い関係を築かせている。高さのある吹抜けの片側壁面に傾斜をつけたのは、トップライトからの光に深さを与え自然と広がりながら落ちる光を感じさせるためである。2階ラウンジホールにおいても、この壁面に設けられた開口からエントランスギャラリーへと落ちていく明るい光を感じることができる。さらに壁がエントランスギャラリー側に傾斜することで境界を取り込み世帯間の距離を近づけている。
生活とアトリエをオーバーラップさせる
もともと、この敷地に建っていた家にお母様は住んでいた。自分の目で見て気に入った物をコレクションし、それらを好きな所にディスプレイし、ダイニングテーブルで絵を描いていた。子世帯と同居することで生活するエリアは小さくなるので、絵を描くことと生活することをオーバーラップさせることにした。
敷地の南西コーナーを三角に開けて、パティオを設えた。奥行のある視線を生み出すパティオと母の大判の絵を描ける大きなデスクを同じ床高さに設定し、高い位置で自然光を受け室内へ明るさを与えながら内外の連続感をつくり出した。デスクはダイニングテーブルを兼ねていて、デスクの上で描かれ新作は、展覧会に出展された後にはエントランスギャラリーに飾られる。
シーンの展開
2階においても斜めに切り取られた建物形状から、階段を中心に鋭角に展開する回遊性のあるシークエンスが創出された。LDKには三角の余白より外光が十分に採り込まれ、北側のラウンジホールには西端にトップライト、東端にハイサイドライトを設けることで明るさを獲得した。この空間は時間により光の射し込み方が変化し、白い壁面と白い階段の各面にグラデーショナルに光の色を落としている。北側に配置され裏動線になりがちな階段室とエントランスギャラリーに立体的なかたちと刻一刻と変化する光の表情を与えることで、多様な雰囲気を生み出すと共に世帯間の気配を自然と感じさせる空間をつくり出した。
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