広島の中心市街地から広島港へと繋がる路面電車通りから少し入り、戦後に建てられた低層の住宅が密集する環境にこの敷地は位置する。施主の生まれ育ったこの場所には、もともと増改築を重ねた木造2階建の住宅が、隣接する住宅に近接して敷地一杯に建っていた。この度の建て替えに際し、密集した周辺住環境の中で、積極的に外部空間を創り出し、そしてその外部へ向けて豊かで伸びやかに連続する住まいを実現す べく設計の方向性を定めた。敷地の北側と東側には近接して住宅が建っており、現在駐車場となっている南側にも、今後やがて建物が建つものと予想された。そこで、フットプリントを極力抑えて、敷地を2分するような3階建を採用し、敷地の南側に、敢えて空地的な余白を設けた。この余白には1階に玄関へのアプローチを兼ねた駐車場、2階にはリビングと対峙するテラスを外部空間として設け、密集した住宅地に、南側隣地の駐車場上空へと繋がるポッカリとした空隙を創り出した。 室内は南側の空地に対峙して大きな開口部を設けた単純な構成とした。1階には、畳の間と兼用した伸びやかな玄関空間 と子供室と仕事場、2階にはテラスにつながるリビング空間 、3階には夫婦の居場所を、単純に積み上げ、廊下のない空間の連続体として積層している。 2階のLDKは、テラスとフラットに繋がるリビングと、段差に よって柔らかく包まれたダイニングキッチン、そしておおらか な吹き抜けを組み合わせ、単純な平面構成において、外部へ 繋がる水平方向の伸びやかさと、上下階への垂直方向の繋が りを加え、内外の至る豊かな連続空間を生み出している。 いたってシンプルな平面構成ながら、そこに接続されたテラ スや駐車場などの外部空間によって、前面道路や周辺環境か らの一定のプライバシーを確保しつつ、生活空間に面積以上 の広がりとゆとりを持つに至った。 周辺の切妻屋根の街並みや壁面線にそっと寄り添いながら凛 と佇むこの建築は、周辺の環境に柔らかく調和しながら、豊かな暮らしを内包している。
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