1970年代後半に分譲さられた片廊下型集合住宅の一住戸の改修プロジェクト。
元の住戸の間取りは、この時期に建設された集合住宅に多く見られる典型的な形式で、やや手狭な3LDKだった。
分譲された当時の標準的な生活を前提として、ディベロッパーの視点で経済性と機能性を秤にかけ最適化された既存住戸の間取りは、家具配置まで自動的に決まるほどの明快さを備えていたが、同時に、過度に最適化(もちろんディベロッパー的視点で)された居室の面積配分が、居住者の生活を建設当時の標準へと誘導し、暮らし方の幅を制限しているように思え、些か息苦しさを覚えた。
そこで、この改修計画では、居室の面積配分に着目し、半ば無根拠に配分した面積を、生活像とは無関係なルールで配列する方法をとる事で、住まいの解放を目指した。
具体的には、まず用途を決めずに漠然と面積の異なる4つのスペースを用意した。用途を与えられていない4つのスペースの間には、相互の関係を決める手がかりがないため、単純に広さの順に住戸の奥(バルコニー側)から並べる事にした。
残ったスペースには、便所や脱衣室、浴室といった明確な機能を持つ場をまとめて設けた。
広い順に並べた4つのスペースの境界には、採光と通風のため住戸長手方向にのみ壁を設け、これらの壁を自由にビスが効くよう木質とする事で、居住者自身の手によるしつらえの拠り所となるよう意図した。
また、これらの木質壁は、各スペースを象徴する要素となるため、表面に高光沢のアクリル塗装を施し、空間に対して強く主張する物体とした。
結果、一室空間の中に4枚の木質の独立壁が立ち並んだだけの住まいが出来上がった。
あらかじめ想定された活動に対し最適と思われる広さを与え、それに沿った暮らしを誘導するのではなく、漠然と与えられた広さを手がかりに生活を展開させ、柔軟に変化を受け入れながら居住者とともに育って行く住まいを目指した。