計画地は、静岡県沼津市の中心部に位置する.車一台が通れるだけの狭い前面道路と密集する住宅群、隣地には高等学校が見下ろすように建つ.また、ガスボンベ庫、金属ゴミ置場、駐車場が隣接し、空き地にはコンテナが無造作に置かれている.周辺環境と約30坪という敷地のなかで、クライアントからはプライバシーを確保しつつ開放的な暮らしが求められた.そこで、一本の木材の規格サイズから寸法体系をつくり、木材に包まれた木箱のような建物を考えた.遠くの山まで唯一見通せる場所に植栽帯と迫り出したテラスを設けて光と風を取り込み、その他の窓に木格子を複合することで、開放性とプライバシーを同時に確保している.
ラフな外装の木材と柔らかな漆喰の肌理が、街と空間の双方に豊かな表情を投げかける.素材の手触りや匂い、天候や季節がつくる陰影の表情、現れては消える誰かの人影.豊かな暮らしとは、その瞬間に湧き上がる感覚のゆらめきの蓄積なのだと思う.
Photo|Akinobu Kawabe
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