建設地の金沢市東山は、細い街路に狭い間口の宅地割りの住宅が建ち並び、伝統環境保存区域に指定された景観上も重要な地区であり、建築の形態や屋根、外壁の色彩なども条例で規制されている。しかし、観光地の茶屋街周辺の景観整備とは異なり、住宅が建ち並ぶこの地区においては、サイディングによる外観や、駐車スペースのために道路から大きく後退した建物によって街並みの連続性や風情が失われている。準防火地域であるため外壁や開口部の仕様も限定され、条例の基準に適合する色彩であれば素材は問われないことにも問題がある。
家族二人が暮らす生活の場は1階にまとめ、2階は全て納戸としている。最小限の駐車スペースを確保した上で、前面道路側の東側を2階建てとして街並みの連続性を保ちながら、敷地奥側の南面に小さな外部空間をとり通風・採光を確保している。
玄関庇と袖壁による防火壁によって隣地境界からの延焼ラインを避けて、玄関廻りに板張りの外壁と木製建具の玄関戸を設け、人を迎え入れる玄関としての雰囲気を創り出している。