敷地南東には天照大御神を祀る神社が鎮座する。 春と秋には五穀豊穣悪魔払いの祈祷神事として獅子舞が行われ、夏には奉納相撲が行われる。 由緒ある神社の林に対してどのような対峙の仕方をすべきか考えた。
まず大きさの異なる4つの箱に分割し、神社より小さなスケール感とした。 片流れ屋根の連なりは北東にそびえる鈴鹿山脈や養老山地と呼応する。
箱は台形平面となっていて、勾配天井と相まってゆるやかなパースペクティブがつき、神社に対して広がる壁とすぼまる壁がある。 その先の開口はポツ窓、引込み戸、コーナーレス、ルーバー越し、テラス越し、出窓とさまざまな形式を持っている。 奥行の深い出窓は寝室に、目隠しルーバーは浴室にとプライバシーの度合いに応じた開口率や形式が選ばれている。 また、大きな壁面には小さな窓、小さな壁面には大きな窓とすることで、窓の特性を強化した。
このように神社に対して多様な向き合い方をつくり、居心地の選択の幅を広げた。 神社の林を畏敬の念を持つべきものと考えるか、単に半永続的に保たれるだろう心地よい緑と考えるかといった立ち位置の違いを心理的負荷なく横断する。
一方で4つの箱を貫く視線・動線もつくられている。 キッチンからは内部全体が見渡せるだけでなく、箱の隙間から駐車ペースや庭の様子を伺うことができる。 西側の庭からはトンネル状の駐車スペースを通して北側の赤道まで視線が抜ける。 最上部の書斎は1階との間に天井の低い倉庫を挟むことで距離を置き、断面的ズレを活かして遠くの街並みが望める。
箱に対するこれら直交方向の抜けは、神社に対する台形平面の図式を崩してしまう要素でもある。 しかし、図式から崩れた部分を孕むことで生まれる豊かさが、住まいには必要ではないかと考えている。
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