しじまの家
敷地は金沢市南部に位置し有松しじま線から一本奥に入った閑静な住宅地にある。周辺には小学校や公園があり子供たちのにぎやかな声が聞こえてきそうな雰囲気がある。
40坪の南西角地の敷地(容積率80%)に家族4人が住み、来客を迎えるスペースを確保するには極めて条件が厳しい。諸条件を整理しながら狭小ながらも心豊かになる生活空間ができるかを試みた。
[条件の整理]
① 明治築の祖父の家で使われていた100年近く経つ無双戸を再利用する。
② 限られた床面積(32坪)の中で豊かな空間を構成する。
③ シンプルでありながら特徴を持った外観デザインとする。
■ 思い出の無双戸
私が大学生のころ明治築の祖父の家が名鉄羽島線の線路拡幅のために取り壊された。祖父の家には座敷を仕切る間仕切として使われていた無双戸があった。(無双戸は縦桟を開閉することで換気できる仕組みになっている。昔の職人の技術に感心させられる。)祖父の家に泊まる時はいつものように子供たちは早く寝かされ無双戸を介して大人たちの話し声が聞こえる。無双戸から座敷の光が柔らかくもれるている様子は子供ながらにその印象が脳裏に焼き付いている。その思いから解体時にはこの無双戸を保管してもらい、いつか利用できればと考えていた。17年ぶりに見る無双戸は痛みも少なく、新たな家の小さな和室とリビングの間の間仕切に活用できた。建物の雰囲気は当時とは異なるが自分の子供たちにも私が体験した思いを感じとってもらえたら幸いである。
■ 豊かな空間構成
玄関前には格子と吹抜によってできたアプローチ空間があり、住む人、訪れる人を心地よく迎えてくれる。床面積32坪の小さな空間を広く見せるためにダイニングとリビング、和室の床はレベル差-600とし階段の踊場+2600レベルにパソコンルーム、更に+1000レベルに寝室、子供室を設けている。寝室、子供室には多目的に利用できるロフトがある。部屋にレベル差を付けることで視覚的な変化と上下移動の変化によって空間に広がりを与えている。
■ 特徴をもった外観デザイン
無双戸を印象づけるために格子をキーワードとした外観デザインとしている。
アプローチ空間を包む西面格子は断面形状を台形とし西日や視線を和らげる効果が得られる。この台形格子は金沢の東山のキムスコをモチーフにしている。南面格子は断面25×50の長方形断面で内側のベランダの洗濯物干しの目隠しや日中の日差しを調整する。また内部からの光をやわらかく外部に発光させている。
厳しい条件の中で課題を1つ1つひも解き、居心地のよい大きな住宅となった。
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