敷地は紀伊半島潮岬の西北西約17kmの和歌山県立枯木灘自然公園内に位置し,太平洋に面する崖上にある。この施設は介護を必要とする高齢者が長期間滞在する中で介護・医療サ-ビスを受けながら,日常生活に必要な歩行訓練や動作訓練を行うことによりその能力を回復し,家庭へ復帰することを目的としている。
海辺の美しい景観に囲まれた環境の中で季節の移り変わりや日々刻々と変化する海や空の風景を体験すると同時に,建物の内外部を往来しながら空間の変化を体験する喜びを通して老人たちが生きる実感を得ることにより,海辺で暮らしてきたそれぞれの生活の記憶が呼び起こされ,その心の中にさらに生き続けることへの意欲が生まれ出ることを願い,このような体験の背景となる建築環境を創出することを試みた。
山から海へ向かう空間軸を持つ敷地にその軸に沿って引き伸ばされたZ型の建物を重ね合わせることにより,山側のアプロ-チと海に連続する芝生の庭をそれぞれ含むL型の領域に囲い込み,敷地を越えて拡がる広大な空間を2つに分断し独立させると同時に,中央の透明な空間を透して2つの領域を連続させ,山から海への空間の流れをつくった。この空間軸を中心として建物の内外に多様な関係を生みだすことにより,雄大な景観と調和する環境の実現を目指した。
ここは,海と密接な生活を営んできた老人が海と空との間に立ち,日々の生活の中で移り変わる自然を体験できる場であり,海にまつわる記憶を呼び起こし自らの生を新たに見つめ直す場である。
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