敷地は神戸市郊外の谷川沿いの農村集落にあり、明治頃築の農家の一部を建替える計画で、将来は息子夫婦のための住宅として活用される。北側には蛇行する谷川と隣地の畑、南側は田んぼとその先に里山が見える。谷川は東から西に向かって流れ、川の流れる敷地北側に向かって緩やかな勾配の雛壇地形を形成していて、永い時間をかけてつくられた長閑な田園風景が現在も美しく保たれている。敷地内には母屋の西側に平屋の離れと蔵があり、老朽化によって傾き建て替える必要があった。田んぼや里山の緑や自然をうまく建築に取り込むこと、目の前の風景を壊さずに馴染ませることを意識しつつも、慣れ親しんだ当たり前の風景を建築で切り取ることで、日常から異化できないかと考えた。
母屋と床のレベルや南側の壁面の位置を揃え、「ハナレ」の西側に建つ農業用倉庫のグレーのアノニマスな雰囲気と、母屋の亜鉛波板葺きのシルバーの大屋根と軒下の濃い影の対比が作る強いコントラストを新しい「ハナレ」の外観に引き継ぎ、周辺のなだらかな傾斜に呼応するように緩勾配の屋根をかけて風景に同化させた。一方で母屋の急勾配の茅葺き屋根の強い形は今まで通りの存在感を発揮し、「ハナレ」の赤みを帯びた土色に塗装された壁面が、里山や田んぼの緑の補色として日常の風景を切り取る。
小さな空間に変化をつけるためにいくつか壺の口のように「クビレ」となる空間を設けている。玄関部分は母屋側に庇を突き出してトンネル状の空間を設け、「ハナレ」の内と外の境界であると同時に、敷地の内と外をつなぐ境界としても機能している。居室は合わせて3つあり、1階の広間と北側の寝室をつなぐ動線の空間、1階と2階の洋室をつなぐ階段や上下階をつなぐ開口部が「クビレ」となり、小さな空間の中に「小さな間」を挟み込むことで豊かな変化を生み出す。
資料請求にあたっての注意事項