建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
暮らしのものさし
2017年 6月14日

家が暖かくなると、人間関係も温かくなる。
「南房総エコリノベワークショップ」で見えてきたのは、一人ひとりの暮らしをみんなでつくることの可能性


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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私は30代・一人暮らし。自宅と職場を往復する毎日を過ごしています。週末の休みは一日中寝てしまうことが多いです…。だけど私にも趣味はあります。年に数回、国内旅行に行くことです。自然あふれる田舎で過ごすと、心が洗われた気持ちになります。できれば毎週末、田舎暮らしをしてみたいです。

そんな“週末田舎暮らし”をはじめて、もう10年以上になる女性がいます。東京都世田谷区の自宅と千葉県南房総市の古民家で二地域居住をしている馬場未織さんです。



南房総市とは



千葉県最南端にある人口40,776名のまちです。標高408メートルの愛宕山や337メートルの伊予ヶ岳など、北に300メートル超の低い山々が並び、西には東京湾、東には太平洋が波打つ、豊かな自然があります。

“酪農発祥の地”と呼ばれていて、例年、皇室に献上している「房州びわ」をはじめとした果実や花卉(かき)など園芸の産地でもあります。近年、農家戸数の減少にともない、かつて農民が住んでいた築100年以上の民家が空き家として残っていることも特徴です。

また、東京湾アクアラインや国道127号、東関東自動車道が走っているため、東京からアクセスしやすく“都心に近い里山”として注目されています。田舎暮らしや二地域居住の候補地に数える人も増えているのだとか。



そんな南房総市での暮らしに魅了された馬場さんは、仲間とNPO法人 南房総リパブリックを立ち上げて、南房総市の田舎暮らしや二地域居住の豊かさを伝えています。2016年には建築家ユニットみかんぐみの竹内昌義さん、工務店つみき設計施工社の河野直さんと一緒に、南房総市の古民家をDIYでリノベーションするワークショップをはじめました。



南房総DIYエコリノベワークショップ
「南房総のある暮らしの作り方。」

http://mb-republic.com/satoyama-life/



南房総市にある古民家のたたずまいを保ったまま、床・天井・障子などを断熱して、居心地のいい暖かい住まいに変えるリノベーションDIY講座です。今年で開催2年目になります。

2017年は、述べ110名が参加。40代を中心に子供から60代まで幅広い年齢層が参加しました。参加者には、ここ数年で日本各地の古民家が低価格で購入できるようになったこともあり、里山に古民家を買った、田舎暮らしや二地域居住の実践者も含まれています。



今日は馬場さん、みかんぐみの竹内昌義さん、つみき設計施工社の河野直さんの3人に、このワークショップについて話してもらいます。なぜ古民家をリノベーションしなければいけなかったのでしょう?

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左から、河野さん、馬場さん、竹内さん





古民家は田舎暮らしのハードルにもなる?

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2017年に開催した、ワークショップ第2回の舞台になった古民家

—— 早速ですが、なぜこのワークショップを企画したんですか?

馬場さん
私は約10年前に南房総市の古民家を買って暮らしてきました。古民家は無断熱です。そんなに寒くない地域と思われている南房総市でも冬は古民家の室温が5℃くらいに冷えます。なので周りの農家さんたちは冬に着込んで暮らしています。私はそんな暮らし方をひとつの異文化体験だと思って、楽しんできました。

でも私自身、年齢を重ねていく中で、この寒さの中で暮らすのは辛くなるだろうと思いました。古民家での田舎暮らしや二地域居住を希望する人に聞いてみても、この寒さがハードルになっていて、田舎で暮らし出せないでいることがわかったんです。





みんなの家が暖かくなりますように

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2017年、断熱ワークショップの様子

—— ワークショップにした理由はありますか?

馬場さん
例えば工務店に依頼し、大きなお金をかければ断熱改修をすることができます。でも、それでは工務店に頼める人しか古民家で暖かく暮らせません。古民家を買ってこれから田舎暮らしや二地域居住をはじめる人や、農家さんたちのように以前から田舎で暮らしている人たちでも、自分の手で古民家を暖かくして住むことができるようにしたかったんです。

そこで竹内さんに協力してもらえないかと考えました。直接面識はなかったんですが、近しい知人は多かったので、SNSで竹内さんがゼロエネルギーハウスをつくったという投稿を見て、会いにいきました。緊張しながら、「古民家を暖かくできますか?」って聞いたら「できますよー。考えますよー」って、とってもポジティブなお返事をくれたんです。

その後、千葉県なら河野さんと一緒に企画したほうがいいと教えてくれて、このお二人と南房総リパブリックとがコラボする形でワークショップをすることになりました。


竹内さんと断熱DIY



竹内さんは、地域の気候風土や敷地の条件などに合わせて、環境への負荷を減らし、自然エネルギーを有効活用できる住宅・エコハウスを数多く手がけてきました。

2015年1月には、リノベーションスクール@北九州でご自身初の断熱DIYワークショップを担当しました。それまでプロによる完璧なエコハウスをつくってきた竹内さんは、ここで「断熱レベルは低くても、人の暮らしを変えていける」という確信を得ます。

この断熱DIYワークショップを一緒に設計・運営したのが河野さんでした。







河野さんと暖かい家



01:27:30から河野さんのプレゼン


2010年7月、「ともにつくる」というテーマを掲げて、河野さんはつみき設計施工社を創業しました。以来、大工さんだけでなく、お施主さん(住まい手)も参加して、一緒に家をつくることを仕事にしています。

そんな河野さんは、竹内さんと一緒に断熱DIYワークショップをするようになって、もうひとつ大切なテーマを得ることができました。それが「暖かくなって、幸せになろう」というテーマです。河野さんは「暖かくするという人間の根本的な欲求が加わって、DIYの目的がより明確になった」と感じています。






古民家リノベって何からするの?

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2016年、会場を現地調査する様子

—— さて、3人はこのワークショップを企画する際に何からはじめましたか?

馬場さん
2016年に初開催したときは、外保育をしている森のようちえんはっぴーさんにご協力いただきました。古民家を使っている幼稚園の施設・はっぴーはうすの断熱リノベーションをDIYさせてもらうことになったんです。

幼稚園の先生はご相談した当初、一体、何がはじまるのかわからないといった様子でしたけど、「暖かくしてくださるなら」と受け入れてくれました。なので、先生の希望を叶えながら、暖かくすることを考えました。現場調査をしながら、室内を暖かくする方法を考えたり、「外に釜をつくれたら嬉しいわ」という希望などを聞きました。

竹内さん
そのときに印象的だったのは、先生が「室内の印象を変えないでほしい」と言ったことですよね。これはとってもむずかしいことなんです。

馬場さん
そして大事なことでもありましたよね。私も以前から「室内を暖かくするって聞くと、壁に厚いボードを張ったり、障子をなくすしかないだろうし、そうしたら風情が損なわれてしまうんじゃないか。でも、暖かくなるんだからしょうがないって考えるしかないのかな」というように、二者択一になってしまったら残念だなと思っていました。

竹内さん
だからこそ、会場に行って、会って話をしながら、何をしたらいいか決めることが大事でした。物事をとても早く的確に決めることができますし。

河野さん
現場調査のあとも、ぼくは竹内さんと連絡をとって何回か打ち合わせをしました。古民家は今の家と違って、畳を外したら丸太を半分に割ったような下地やボロボロの板が出てきます。決して、市販の断熱関連製品をそのまま敷き詰めればいいわけじゃありません。工夫する必要がありました。





むずかしいけど工事にしない!

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2016年、ワークショップの様子その1

—— 少し整理します。馬場さんは、工務店任せにしないで、住む人の手で暖かい家にDIYする方法を探していました。しかし竹内さんや河野さんから見ても、古民家の断熱リノベーションはむずかしいものでした。どうやってこの課題をクリアしたんですか?

河野さん
まず大前提ですが、幼稚園の先生がみんなで学びながらつくることに理解を示してくれました。学びについて、とてもポジティブだったんです。

馬場さん
本当に、DIYってその家で暮らす人の考え方に支えられますよね。

竹内さん
そして事前にお話しをきいているとき、先生も不安な部分があることはわかりましたから、その不安には寄り添っていきました。

河野さん
その上で、ワークショップとして学びのある工程をちゃんと組みました。竹内さんが断熱について深い知識を持っているので、学びの設計はぼくが責任を持って考えました。

竹内さん
断熱をちゃんとしたいということと、みんなでどこまでできるのかということのすり合わせはほんと大事。おかげで“南房総式”の断熱方法が生まれました。


南房総式とは

「南房総のある暮らしの作り方。」では、畳をめくった下地に気密シートと、薄い断熱材を敷く方法で断熱しました。それは、古民家の風情を損なわないという要件を満たした上で、室温を高めるベストプラクティスです。各地で応用できる方法なのだとか。




河野さんのワークショップ

河野さんのワークショップには、もうひとつ大きな特徴があります。それはワークショップをはじめる前に、必ず、大工さんから道具のレクチャーをしてもらうことです。

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「大工の忍田孝二さんが、ワークショップに事前に必要な工事から、納まりのアドバイス、当日の技術指導までを丁寧に行ってくださいました」(河野さん)

河野さんはプロの職人の歴史とみんながDIYできるカルチャーを結びつけて、新しい文化を育てていくようなワークショップを設計しています。






暮らす人の未来をみんなで共有する

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2016年、ワークショップの様子その2

—— みんなで断熱DIYができるように設計する際、大切にしていることは何ですか?

河野さん
いくつもありますが、目的意識をはっきりさせることはポイントです。みんなが、ただ断熱の技術を学ぶだけじゃなくて、これをつくったら何につながるのかを共有します。

2016年のときは幼稚園の先生がその話をしてくれました。そのおかげで、みんなが「室内が暖かくなることは、園児の関係をもっと温かくすることにつながるんだ」というイメージを持つことができました。

馬場さん
この感覚の共有はほんとにすごかったんですよ。温かくする一方で、風情を変えないという前提がありましたから、畳を外して薄い断熱シートを敷いてもまた同じ畳を戻しますし、屋根裏に断熱材を入れても、見える天井自体は元のままなんですね。つまり、みんなで汗水垂らして作業をしても、見た目はまったく変わらないんです。

だけど、完成したときにみんながすっごい嬉しそうに拍手をしていたんですよ。

竹内さん
改めて、みんなでつくるとおもしろいんだなって感じました。参加者には、子供もいましたけど、子供にとっては大きな工作をしているように見えて楽しそうだったし、大人も子供がいるから、いつもの3倍くらい安全に気をつけて作業できましたよ。





一人一人の暮らしをみんなでつくる

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2017年、ワークショップ中のワンシーン

—— 2016年に続き、2017年もワークショップを開催しました。この1年の間、当初の目的だった「自分の家を自分で暖かくする」ことを果たせた人はいましたか?

馬場さん
意外なことが起きました。ワークショップが終わった後、私たちの手を離れたところで、次々と参加したみなさんが協力しあって、自分たちの住まいで断熱DIYをはじめたんです。「暖かくなるっていいことなんだ」「一緒につくるって楽しいんだ」って共有できたことで、伝播する力が生まれたのかもしれません。

河野さん
参加した方々のなかには、実際に2地域居住をしている人たちがいたんですよね。その方々は「家を買ったけれど、どこか寂しい…」というリアルな悩みを抱えていました。だからか、ワークショップのあとのつながり方がとてつもないものでした。

このワークショップの参加者が集まっているfacebookグループで連絡しあって、「今、この人が困っているから、みんなで集まって直してあげよう」って、月2回ぐらいのペースで、どこかの地域で断熱DIYをしています。

馬場さん
みなさんプロじゃないことはわかりあっているので、多少の失敗は許し合いながら、一方は「一緒に作業をしてもらう」、もう一方は「寝食を用意してもらう」ということを交換しあっています。

まるで、昔の村々で茅葺き屋根を葺き替えるときに村人みんなで一軒一軒やって、終わったら一緒にごはんを食べていたような感じですよ。

竹内さん
その所為か、2017年1月に開催した第2回のワークショップは、半数近くが1回目に参加したリピーターでした。「もう覚えることないじゃん」じゃなくて、「楽しいから来る!」って人たちがとっても多い。

馬場さん
ほんと全然想定していなかった結果ですよね。“地域×断熱×ワークショップ”って、二乗にも三乗にもふくらむ大きな効果が生まれることを実感しました。





一軒一軒の暮らしがまちを豊かにする

—— 参加者以外の方にも変化は起きましたか?

竹内さん
終わったあと、幼稚園の先生も「こういうやり方で、ものをつくることができるんですね。ワークショップっておもしろい」と言ってくれました。次の週に、早速ドリルを買いに行っていたくらいです。

馬場さん
ワークショップが終わってからも、いろいろと改修していましたよね。

竹内さん
そんなふうに変わっていく様子を見ていても、このワークショップは奥行きのある結果が生まれているなと思います。

馬場さん
あと、このワークショップには南房総市の職員の方々も一緒に参加してくれたんですね。もともと南房総市の人たちは、冬は寒さを我慢して春を迎える文化を持っていたんですが、このワークショップでは我慢しないでも暮らせる文化をつくろうと試みました。

実際、ワークショップに来た市の職員の方から「なるほど。まちの暮らしの価値をつくるということは、大きな事業やイベントを起こすのではなく、こういう一軒一軒の暮らしをつくっていくことなんですね」と言ってもらえました。私たちが感じていたことを職員の方々もちゃんと感じてくれていたみたいです。

これから南房総市という地域が変わっていく一石にもなったのかもしれないって、嬉しくなりました。





全国に暖かい古民家を

—— 最後に今後の展開を教えてください。

馬場さん
私たちが地域で何かをはじめると、集落の方がみかんを持って、様子を見にきてくれるんですね。それで応援してくれて、その人たちの口から「馬場さんのところ、若いもんがいっぱい来て、何かおもしろいことをやっているよ」って周りの人たちに伝えてくれるんです。

それが「うちの地域にも良いところがあるみたい」って気づくきっかけになってくれたら嬉しいです。

私には目を閉じると思い浮かぶ、周りのおじいちゃんやおばあちゃんの顔があります。そんな人たちの住む家が暖かくなって、例えば古民家は寒いからって行くのを嫌がっていたお孫さんがその人たちの家に来るようになったりすると、理想ですよね。

そんなふうに暖かい田舎暮らしが他の地域でも広がっていくように、地域の境界線を越えて知と縁をつないでいくことを目指しています。

竹内さん
ぼくは実際に、全国で断熱ワークショップをしながら、地域でエネルギーをつくる取り組みを準備しています。地方なら、エコハウスだけじゃなくて、太陽光発電や太陽熱温水器を使って、本当に自分たちの暮らしに必要なエネルギーをつくっていけます。そういう取り組みを各地に広めていきたいですね。

河野さん
そういう意味でも、ぼくはぼくと同じように住まいを「ともにつくる」担い手を育てていきたいです。もともと住まいは、“つくる・なおす”という人間の根本的な喜びとつながるものがあります。それをみんなが感じられるようにしていきたいです。

今まで日本の住まいをつくってきた大工さんと一緒に、DIYからプロまでがつながるものづくりの生態系をつくっていきたいですね。


※この記事はgreenzに2017年6月1日に掲載されたものを転載しています。

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