これは書棚を中心に本と共に暮らす住宅である。 新聞記者である建主には、沢山の書籍を収納する場所を確保し、なおかつ全ての本を眺めながら暮らしたいという望みがあった。
長さ7m、高さ7m、奥行き60cmの書棚を家の中心に配置することで、全てのスペースが棚と面するようになり、家族全員がひとつの棚を共有することになる。 さらに木軸架構に組み込んで一体に施工することで、本の荷重を支えると共に耐力壁の役割も果たしている。 書棚として以外にも玄関では下駄箱として、ユーティリティではタオル、下着類の収納、寝室では洋服棚、台所では食器、食品棚として多様に機能している。 棚に入れる物の有無、種類、並べ方によってスペースとスペースを緩やかに分けたり繋いだりすることができる。 棚を南側に2.5度傾けることによってできる矩形でない大小様々なスペースは機能的に必要な寸法をもって決められていて、合理的に利用され、なおかつ空間に表/裏、開/閉の性格を与えている。 さらにこの角度にすることで梯子を利用しての本の出入れを容易にしている。 家族にとって棚の所有範囲は曖昧で、棚を中心に領域を巡りながら暮らしている。 「建築のような家具であり、家具のような建築」である。
また、敷地境界に沿ってのびる2枚の耐力壁は105角の柱を雇い実で連結してつくる柱壁となっている。 黒染めされ、棚の木地色と対比されている。構造材がそのまま内部仕上げとなると同時に、断熱材、遮音材、調湿材の役割も果たしている。 実際にその効果は大きく、北陸の冬であっても小さな暖房機一台で過ごすことが出来る。 スポーツ好きの子供たちはこの壁を利用してサッカーや野球のパス練習をしたり、ロッククライミングのように登り降りしている。 黒染め柱壁には「存在感の重さ」がある。
これら2つの構造的特徴を持つこの住宅は、今まで距離をおいて見ていた構造体をより身近に関わる構造体に近づける可能性をもっていると言える。
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