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いまさら聞けない!家と暮らしのキーワード
記事作成・更新日: 2025年 1月10日

擁壁(ようへき)って何?
住宅購入時に知っておきたい特徴と注意点をわかりやすく解説

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擁壁(ようへき)は、土地の高低差による土砂の崩壊を防ぐために作られる重要な構造物です。住宅購入時に擁壁がある物件を選ぶ場合、その役割や状態を理解しておくことが欠かせません。適切な擁壁は安全な生活を支える一方で、老朽化や建築基準法の問題が絡むとトラブルの原因にもなり得ます。この記事では、擁壁の基本から種類、注意点、トラブル事例までを詳しく解説し、後悔しない住宅選びのためのポイントをお伝えします。


擁壁(ようへき)とは


擁壁とは、土地の高低差による土砂の崩壊を防ぐための構造物で、特に高台や斜面地に建つ建物では欠かせない存在です。これにより、住宅や周辺地域の安全性が保たれています。以下では、擁壁の役割と土留め工事との違いについて解説します。

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津田の家(+atelier)

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津田の家(+atelier)

擁壁の役割

擁壁には主に「土砂の崩壊防止」「土地の有効活用」「景観保全」という三つの役割があります。特に、雨が多い地域や地震が頻発するエリアでは、擁壁の有無が安全性に直結します。擁壁がない場合、土砂崩れのリスクが高まり、建物や人々の生活に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
また、擁壁を設けることで、斜面や高低差のある土地を平坦に整えることが可能になり、住宅や庭、駐車場などの有効活用につながります。さらに、景観の観点でも擁壁は重要な役割を果たします。石積みや装飾性のある擁壁は周囲の景観に溶け込み、美しい街並みを形成することができます。このように、擁壁は安全性だけでなく、土地の活用や美観にも大きな貢献をしています。

擁壁工事と土留め工事の違い

擁壁工事と土留め工事は、どちらも土砂を支える目的で行われますが、その規模や構造に違いがあります。擁壁工事は高低差の大きい土地に対応し、コンクリートや石材を用いた堅牢な構造を築くのが一般的です。この工事は特に大規模な造成地や斜面地で必要とされ、安全性を重視して設計されることが多いです。
一方、土留め工事は比較的小規模な土砂の崩れを防ぐための工事で、木材や簡易的な資材が用いられることが多く、コストを抑えたい場合に選ばれることがあります。この工事は、一時的な目的や住宅の庭など限定的な用途にも適しており、必要に応じて設置や撤去が容易な点が特徴です。さらに、両工事には使用目的や土地の条件に応じた設計が求められ、それぞれの利点を活かして適切に選択することが重要です。






擁壁の種類


擁壁にはいくつかの種類があり、それぞれ素材や特徴が異なります。購入する土地や物件の条件に応じて適切な種類を選ぶことが重要です。擁壁の種類は大きく以下の3つに分けられます。

・コンクリート擁壁
・ブロック積擁壁
・石積み擁壁

コンクリート擁壁

コンクリート擁壁は、主に鉄筋コンクリートを使用して構築される擁壁で、耐久性と安定性に優れています。鉄筋を使用することで内部の強度が大幅に高まり、地震や土圧に対する耐性が向上します。一方、無筋コンクリート擁壁は鉄筋を使用せず、比較的簡易な構造となっていますが、強度が劣るため、使用できる場面が限られます。
逆T字型やL字型といった形状があるコンクリート擁壁は、土圧に対する高い強度を持つため、長期間にわたって機能を果たします。そのため、特に高台や大規模な造成地でよく見られる構造です。

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デッキ・ハウス(天工舎一級建築士事務所)

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デッキ・ハウス(天工舎一級建築士事務所)

ブロック積擁壁

ブロック積擁壁は、コンクリートブロックを積み上げて作られる擁壁です。見た目のバリエーションが豊富で、住宅地では比較的多く見られるタイプです。間知(けんち)ブロックと呼ばれる形状のブロックが使われることが多く、設計次第でコストを抑えることも可能です。また、施工が比較的簡単で、狭小地や低コストでの施工を希望する場合に適しています。ブロックの種類やデザインも多様で、必要に応じて装飾性の高いデザインを採用することもできます。
さらに、間知ブロックはその形状から土圧を効率的に分散させる特徴を持ち、安全性と耐久性の両立が可能です。ただし、施工不良や長期間の使用による劣化が発生すると、安全性が損なわれる可能性があるため、定期的なメンテナンスが推奨されます。

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Usyoro/Twisting Roof(平林繁・環境建築研究所)

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Usyoro/Twisting Roof(平林繁・環境建築研究所)

石積み擁壁

石積み擁壁は、自然石や加工石を積み上げて作られます。景観的な美しさが特徴で、伝統的な建築や観光地においてよく利用されます。このタイプの擁壁は、周囲の自然環境や歴史的景観と調和しやすいため、美観を重視する場面で特に選ばれることが多いです。また、使用する石材には多様な種類があり、地元の素材を活用することで地域性を表現することも可能です。
一方で、施工には熟練した技術が必要とされ、石材の選定や積み方によって耐久性が大きく左右されます。適切に施工された石積み擁壁は非常に長持ちしますが、手入れや修繕が行われない場合、経年劣化によりひび割れや崩れが生じることがあるため注意が必要です。

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山の家(カナデラボ 一級建築士事務所)

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山の家(カナデラボ 一級建築士事務所)

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杉並区H邸(S.O.Y.建築環境研究所)

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杉並区H邸(S.O.Y.建築環境研究所)






擁壁工事が必要な土地


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山の家(カナデラボ 一級建築士事務所)

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山の家(カナデラボ 一級建築士事務所)

土地の形状や立地条件によっては、擁壁工事が必要となる場合があります。特に高低差の大きい土地や斜面地では安全のために擁壁が欠かせません。土地の高低差が2m以上の土地に建物を建てる場合、多くの自治体では「がけ条例」に基づき擁壁を設置することが義務付けられています。条例の具体的な内容は自治体によって異なるため、土地の特性に応じて詳細を確認することが重要です。

また、「宅地造成工事規制区域」に指定された地域では、以下のような工事を行う際に自治体への申請と許可が必要となります。

・切土で高さ2mを超える崖を生ずる工事
・盛土で高さ1mを超える崖を生ずる工事
・切土と盛土を同時に行い、合計で高さ2mを超える崖を生ずる工事
・宅地造成面積が500m²を超える工事
・高さ2mを超える擁壁や排水施設の除去を行う工事

これらの工事を進める場合、事前に自治体の許可を取得する必要があり、申請から許可が下りるまで1カ月以上かかることが一般的です。擁壁設置後に建築申請を行う流れになるため、スケジュールに余裕を持って計画しましょう。






擁壁で起こり得るトラブル


擁壁は土地の安全性を確保するために重要な役割を果たしますが、適切な管理が行われていない場合にはさまざまなトラブルの原因となることがあります。ここでは、具体的な例を挙げて注意点を解説します。

老朽化による崩壊

擁壁は長年の使用で劣化し、強度が低下することがあります。たとえば、ひび割れや傾きが見られる場合、早急に修繕や作り直しが必要です。これを放置すると、雨水の侵入や地震の影響で崩壊につながるリスクが高まります。特に古い擁壁は建築基準法に基づく設計がされていないことが多く、災害時には重大な危険を伴います。そのため、専門家による定期的な点検とメンテナンスが欠かせません。

擁壁が共有物になっている

隣地との境界に設置された擁壁が共有物である場合、管理や修繕に関する責任分担を巡って隣人とのトラブルが発生することがあります。たとえば、どちらが修繕費用を負担するのか、工事中の対応はどうするのかといった問題が典型例です。これを防ぐためには、事前に所有者間での取り決めを明確にしておくことが重要です。

建て替え時に擁壁を作り直さないといけない

古い擁壁が現行の建築基準法に適合していない場合、建て替え時に新たに擁壁を設置する必要が生じることがあります。この場合、追加費用や工期がかかるだけでなく、自治体への申請手続きが必要になることもあります。このような手間を避けるためにも、建物を購入する前に擁壁の状態を確認し、必要な修繕や変更点を把握しておくことが重要です。






擁壁のある物件を購入する際の注意点と対策



擁壁がある物件を購入する際は、その状態や法的適合性を慎重に確認する必要があります。以下で詳しく見ていきましょう。

現行の建築基準法に適合しているか確認する

擁壁が現行の建築基準法に適合しているかを確認することは必須です。建築基準法に適合していない場合、修繕や再構築が必要となる可能性があります。また、適合性を確認する際には、擁壁の高さや材料、施工方法が法的要件を満たしているかどうかを細かく調査する必要があります。
特に擁壁が老朽化している場合、新たに作り直すコストや時間を考慮した上で購入を検討することが重要です。建築基準法に適合していない擁壁をそのまま放置すると、建物の安全性にも影響が及ぶ可能性があるため、専門家による点検を受けることを強くおすすめします。

擁壁の状態と構造をチェック

擁壁の現状を確認する際は、単に外観をチェックするだけでなく、内部構造や排水機能に問題がないかを慎重に調べましょう。ひび割れや傾き、漏水が見られる場合は修繕が必要です。特に排水機能が不十分な場合、雨水の浸透によって擁壁全体が不安定になるリスクがあります。たとえば、擁壁の周囲に排水設備が設置されているか、排水溝や透水材が適切に機能しているかを確認することが重要です。
さらに、擁壁が斜面地や高低差のある土地に設置されている場合、地震や豪雨時にどの程度の安全性を確保できるかを専門家に相談することも推奨されます。現地視察の際には、必要に応じて擁壁内部の耐久性を確認するための非破壊検査などを依頼すると良いでしょう。

隣人とのトラブルに注意する

擁壁が隣地との境界に設置されている場合、その管理や修繕において隣人と意見が対立するケースが少なくありません。たとえば、修繕費用の負担割合や修繕工事のタイミングを巡ってトラブルになることがあります。このような問題を未然に防ぐためには、擁壁の所有権や管理責任を明確にしておくことが必要です。購入前には、土地の契約書や境界に関する資料を確認し、必要に応じて隣人と話し合いを持つことが推奨されます。
また、共有の擁壁であれば、修繕や維持管理についての取り決めを事前に書面で記録しておくことで、トラブルのリスクを軽減できます。さらに、擁壁の改修や工事が隣地に影響を及ぼす場合、事前に隣人に通知し理解を得ることも大切です。






まとめ:擁壁の知識を身につけて後悔のない選択を


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東谷の家(加門建築設計室)

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東谷の家(加門建築設計室)

擁壁(ようへき)は、土地の高低差による土砂崩れを防ぐ壁です。特に斜面や傾斜地では、安全確保のため重要な役割を果たします。設計不良や劣化した擁壁は、建物や周辺にリスクをもたらすため、住宅購入時には状態を確認しましょう。法律に適合していない場合、修繕や再構築が必要になるケースがありますので注意が必要です。 また、点検では、ひび割れや排水機能を確認することが重要です。排水不良があると、土圧が増して擁壁が不安定になる可能性があります。耐久性を評価するには、専門家の助言を受けるのが望ましいでしょう。なお、隣地との境界に設置された擁壁では、管理責任や修繕費の分担について事前に隣人と合意しておくと安心です。 この記事では、擁壁に関する基本的な知識を紹介しました。購入を検討する際にはこれらを活用し、自分に合った最適な選択をしてください。

Text SuMiKa運営事務局

記事作成:2017年 9月27日 更新日:2025年1月10日

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