
敷地は岡山県岡山市南区の郊外にある。江戸時代からの干拓によって内海を陸地に変え、農業が発達してきた地域と山の裾野との境界に位置している。近年は農家の減少、少子高齢化、人口減少、郊外の宅地開発が進んだことで、周辺は宅地と農地とが混在しており、また空き家や耕作放棄地の問題が顕在化しつつある。
このプロジェクトはそのような土地の変遷の中、かつて農業用倉庫として使用された木造建築を事務所兼住居として改修し、また、使用されていない前面の耕作放棄地を原っぱのような空き地としての外部空間と読み替えて活用することで、地方都市の郊外での暮らし方、建築と外部空間との関係、そして街並みへのアプローチを現代に適合するよう、新たに捉え直すものである。
ここでは、既存建築が持っていた「2層のひとつながりの空間」の中に折り返しのひと筆動線を計画し、その後、必要な用途を空間内の動線上適切な場所に配置した。その結果、「天井高の低い平面的な広がりのあるエントランスとダイニング・キッチン」、「吹き抜けにより開放性のあるリビング」、階段を介して「折れ屋根の勾配天井により高さが暫時的に変化するベッドスペースとワークスペース」といった多様な居場所が生まれた。
空間構成はおおらかに、居室を個々の用途で厳格に完結させず、補強した構造材や水回り、収納スペースを動線の中に配置しながら各居場所が空間を跨ぐよう繋げ、それらに合わせて家具や植栽を配置した。開口を設けた場所では外部の風景と連続してもいる。建物東西面のハイサイドライトは内部の動線と合わせて空へと視線が抜けて広がりを感じられるだけでなく、空間全体に自然光を届ける役割を担う。家具や手すり等の、より人間の身体感覚に近づくスケールにおいては既製、造作を問わず、高さ・断面寸法・素材を揃えたり近似させ、反復することで空間全体を構築する要素を緩やかに束ねた。
屋根は既存建築から架け替えを行い、形状及び勾配は周辺の山並みの稜線の勾配と内部動線の流れに沿うように定めた。また、空き地は周辺の住宅との距離感において物理的な緩衝空間の役割を果たすと同時に、近隣の公園を補完する役割となり地域の子どもたちの遊び場としても使用されている。
現在の日本の人口減少社会において、地方の郊外では都市及びそれに伴う生活インフラの縮小、地域拠点の集約、既存建物ストック活用による日常生活や治安の維持・向上が急務の課題であり、そのアクチュアルな解決が求められている。岡山県でも岡山市中心部では市街地のコンパクトシティ化が推進されているが、私は、同時に中心市街地を支える郊外の地域拠点の住環境の整備が重要であると考えている。
そして、それぞれの地域に住まう人々にとっては開発よりも寧ろ、既存建築及び外部空間の読み替えや更新を積極的に行うことで、新たな暮らし方を探すことが重要となるのではないだろうか。
今回は、この土地から生まれた木造の農業用倉庫という建築類型が、我々の改修計画を導いた。周辺環境から生まれたおおらかなひとつながりの空間と屋外空間が、時間を経て用途を変えつつも、再びその環境に混ざって多義的な居場所を生み出している。

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