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2014年 2月12日

商いを“飽きない”。岡山・真庭市の「パン屋タルマーリー」に学ぶ、小商いのはじめ方

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勝山・町並み保存地区にあるタルマーリー

資本主義が行き詰まり、日本史上初の人口減少、原発など高度経済成長を支えたモノたちの安全神話が崩れた今、にわかに注目されているのが、「小商い」という働き方です。

ヒューマンスケールの再構築、小資本、少人数で開業する商い、利益だけを追い求めず、働くことに疑問を抱かず自分らしさを失わない働き方…などなど、「小商い」にははっきりとした定義がありません。

それならば、実際「小商い」を実践している人々からのリアルな声に耳を傾け、小商いの本質に触れてみてはいかがでしょうか。

今回、お話を聞かせてくださったのは岡山県真庭市勝山にある「パン屋 タルマーリー」の渡邉格(わたなべ・いたる)さんと奥さんの麻里子さん。

“菌”に耳を傾け、国産小麦と自家製天然酵母で丹誠込めたパンを作り、さらには『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(渡邉格著、講談社)という経済書の著書まで持つ、不思議で素敵なパン屋さん。岡山でもドがつくほどの田舎(岡山駅から電車で2時間以上!)に、毎日ひっきりなしにお客さんを呼び、地元からも愛され町おこしにもひと役買っている「小商い」の担い手です。

さて、あなたが探す未来のヒントはみつかるでしょうか?

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撮影:中川正子さん


渡邉格さん・麻里子さん
2008年千葉県でパン屋タルマーリーを起業。自家製酵母と国産小麦でパンを作る。天然菌だけで発酵させると、自然栽培の素材でベストなパンができることを知る。より良いパンを作るために良い水を求め、2011年7月 勝山へ移転し、天然麹菌の採取に成功。2013年はカフェをリニューアル。更に自家製粉100%を目指し製粉機を導入。タルマーリーの挑戦は続く。著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)。


タルマーリーのはじまり

まずはイタルさんとマリさんの簡単なストーリーから。

ご夫婦は有機農産物の卸売り会社で同僚として知り合い、同じような思いを持つふたりは結婚。結婚した当初から田舎でカフェをやりたい、それを現実にするためのスキルは何なのかを探していました。

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イタルさん 当時サラリーマンでしたが独り立ちするためにどんなスキルを持てばいいだろう、と考えていたとき、死んだおじいちゃんが枕元に立って「パン屋をやりなさい」という夢を見たわけです(笑)。
(※詳しくはイタルさんの著書『腐る経済』で!)

思いつきは突拍子もなかったんですけど、妻は当時、ワーカーズコレクティブ凡(ジャム・シロップ加工業者)広報の仕事をやっていたので、ジャムとパンで、必然だったのかな、とも思います。



マリさん もともと、その土地で採れたものを加工する仕事がしたくて、その手段として選んだのがたまたまパン、という感じです。


やりたいことが明確にあったお二人。イタルさんはパン職人として修業をはじめ、マリさんも起業に向けて準備を進めました。そして2008年に千葉県いすみ市にイタルとマリのお店=「タルマーリー」がオープン。「農あるパン屋」は地産地消、100%自家製天然酵母、国産小麦を使用し、お客さんはもとより、地域、農、様々なモノヒトコトに優しく気持ちのいいパン屋としてたちまち大人気パン屋になりました。

パン屋さんとしてのタルマーリーの活躍はみなさんご存知でしょう。今回は小商いそして起業という側面で、お二人はどんな心持ちだったのか、聞いていきます。

お金と人とモノが循環する地域社会

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いすみ市にあったときの様子 撮影:パン屋タルマーリー


イタルさん 千葉県いすみ市で起業して、まちを強くしていきながら、小さな社長を増やしていこうという企画をやっていたんです。 地域通貨を発行したり、起業セミナーを開催したり、持続可能な社会の実現を目指す、房総の作り手たちが一日だけ自分のこだわりのお店を出店できる「ナチュラルライフマーケット」を主催してみたり。

その頃、「小商い」という言葉はなかったですが、「“強い小さな社長”をたくさん増やそう!」と意気込んでいました。



マリさん お金と人とモノが循環する地域社会がいいな、と最初から考えていました。そこらかしこに小商い的なひとたちが居る地域がいいなって。それならば、起業したいっていう人を田舎に呼びこむしかない、と思いました。

地元の方々は、自分たちが暮らす環境が当たり前ですよね。私たちは水が美味しいから移住したけれど、地元の皆さんにとっては、生まれた時からこの水が普通なわけで。よそ者の私たちだからこそ、“当たり前”だけどかけがえのない資源を活かせるかもしれない。


そしてタルマーリーは、2011年の震災・原発事故をきっかけに移転。導かれるまま岡山県の勝山へ移住しました。タルマーリーがやってきた岡山県真庭市勝山は、江戸時代の古い街並が残る歴史ある町。自然も豊かで水も環境省が選定する日本名水百選に選ばれるほど。そして、いすみ市よりももっともっと田舎である勝山で、お二人は2度目の「小商い」をはじめます。

勝山でしかできないものを作る

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撮影:片岡杏子さん

千葉県いすみ市と岡山県の勝山、二カ所で起業したわけですが、その二つの起業の違いは“場所”ではなく、彼らの“心”にあるようです。


マリさん 千葉にいた頃は、首都圏で東京も近くて顧客がすぐに足を運べる距離にお店がありました。東京経済圏に甘えていた部分もあったのも事実です。

違いといえば、私たちの心構えが違います。千葉であのスタイルのままだったら潰れていたんじゃないかな。場所がどこであれ、結局は独自性を追求していかなければお客さんは離れていくと思うんです。

勝山でタルマーリーを営み、生きていく、暮らしていく。そのためにはもっともっとクオリティを上げていかなきゃいけないなと思いました。で、勝山は“一般的”に考えれば「こんな人が少ないところで高いパンが売れるのだろうか」って心配になってしまうような場所。だからこそ、“ここでしかできないもの”“わざわざここまで足を運ぶためのもの”を作らなきゃっていう気持ちが強くなりました。

だから、今までやりたかった、美味しい水で美味しいパンを焼く、地元の小麦を使うために製粉機を導入する、カフェをリニューアルする、など、勝山に来たからこそ“やらなければ”を実現して早2年目。すごく良かったと思います。



イタルさん 商品はかなりシビアに作るようになったんですけど、受け入れる土壌と意味で、岡山の人たちはとても懐が広いです。そして、長くお店を愛してくれるように感じます。


マリさんが「それでも、いまの勝山のタルマーリーのポテンシャルなら千葉でもずっとやっていけたと思います」と言うと、「でも、きっと、この味は出せなかったね」とイタルさん。ここでしか生み出せないものが育っているようです。

“作り屋”として最高のものを追求する

勝山では、築100年を越える古民家を自分たちの手でほぼ改修し、一からタルマーリーを作り上げました。大変さと楽しさは表裏一体だとお二人は笑います。


マリさん 知らない土地に来て、小さい二人の子どもを育てながら、そこに住みながら古民家を改装していくんですから、しかも冬で寒くて…大変でしたよ。大工のプロじゃないからいつ出来上がるかわからないし、お風呂はないし、トイレもいつ完成するのか…。



イタルさん お風呂なども自分たちで移築したんですよ!コンクリートドリルなど買って、自分たちでガーーッって(と嬉しそうなイタルさん)。

2011年12月から2012年の2月まで、3ヶ月、ずーっと工事の日々でした。DIYの本を片っ端から読んで、できるかぎり自分たちの手で改修しました。 またパン屋の機材も千葉から自分たちで運んで来たので「動くか?」と不安で。

大きなオーブンも、仲間と一緒にフォークリフトで降ろしました。その時期は人生初の便秘になりました(笑)。何百キロもある機材を運ぶとき、もしなにか事故があれば人が死ぬんで。相当緊張してましたね。


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2013年夏にカフェをリニューアル。庭のウッドデッキは、難波邸が担当。床材は西粟倉・ニシアワーのもの。

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また千葉から岡山への移住、まったくいままでと違う環境、そして縁もゆかりもない西日本。住まいを変えることについては不安はなかったのでしょうか?


イタルさん こちらは、飯とかちょー旨いですよね。野菜も肉も、圧倒的になにもかも!それだけで、本当によかったなぁって。むしろ、もっと早く中国地方の環境の良さに気付ければよかったと思うくらいです。

“作り屋”として最高のものを追求していったら、水とか環境に行き当たりますから、こだわるのは必然ですよね。


そして、小商いの大きなスキームの一つ、小資本。タルマーリーもこれに当てはまります。初期投資などおいくらかかったのか、すっぱり潔く教えてくださいました。


イタルさん 勝山の工事費は、初期投資と従業員の給料を出して260万+助成金125万でトータル385万くらい。それと別に、引越し代がかかってますし、移転準備の約9か月間は無収入だったわけですが…。

千葉での実績があったので、機材などはそのまま運んで使い、店の改装も自分たちでやったので、内訳的に一番掛かったのが、下水などの設備費で約200万円です。勝山の美味しいお水の恩恵を受けているタルマーリーが、勝山のお水を汚すのは本意じゃないので、そこには投資しました。


『腐る経済』では、

僕ら「田舎のパン屋」が目指すべきことはシンプルだ。食と職の豊かさや喜びを守り、高めていくこと、そのために、非効率であっても手間と人手をかけて丁寧にパンをつくり、利潤と訣別すること

———とイタルさんは言っています。「働き方」に豊かさを求めていいのが、「小商い」なのです。

タルマーリーの働き方

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撮影;中川正子さん

そして、小商いの“働き方”とは。タルマーリーの現在のお店のオペレーションを伺います。


イタルさん 僕は朝3時半にお店に出ます。製造スタッフは朝4時。日々仕事の内容が違うのでその日の仕事の段取りを組みます。5、6種類の天然酵母は「なにからやる」という決まりがないので酵母の様子を見て決めるんです。そこから、作業をはじめます。

朝7時半に販売スタッフが来るのでスタッフ全員で朝ごはんを食べます。そこでちょっとした話しをします。その後、製造スタッフは昼の13時くらいまで仕事です。その後、一緒にお昼ご飯を食べて、製造スタッフは帰ります。販売スタッフは17時まで、パンの発送と販売、カフェ業務です。普通のパン屋さんよりは労働時間が短いと思います。


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取材に行った時のお昼ごはん風景。みんなで食べるが基本です。パンを温め直すとき、“蒸かす”のがおすすめとイタルさん。


イタルさん 月の売り上げは、現在は200万くらいです。千葉の頃は自分一人で焼いて週3日営業で約100万。今は製造の人間が4人いて、週4日営業で200万円なので、以前よりずっと手間をかけているんです。

千葉にいたときは、販売アルバイトは雇っていましたが、基本的に夫婦ふたりだけでやっていたので、今より余裕があったかもしれません。「そんなに稼ぐ必要もないし、1週間休もっか」って休んだりしてましたよ(笑)。


東京はどうしても月々の家賃が高かったり、他のことで経費がかさんでしまうので、休まず売り上げを出さないとペイできません。元手がかからない。そこが田舎の小商いのいい所じゃないかな、とイタルさんはいいます。


イタルさん 家賃は店舗住居合わせて3万5千円です。築百年の味わいある古民家を安く貸してくれるのはありがたいです。古民家にはパンになる良い菌がたくさん住んでますから。


また、現在、スタッフを多く採用しているのは、田舎で雇用を生む地域貢献なども考えているのでしょうか?


イタルさん それもありますが、ただシンプルに、技術をきちんと伝えていきたいんです。今はさらに何人か、腰を落ち着けてタルマーリーで修業したいという人を募っているところです。(「パン屋タルマーリー研修生、急募!」

ウェブの募集を見て、スタッフ志望で来てくれても、すぐ辞めてしまう子もたくさんいました。「超優しい店主が天然酵母に名前をつけたりして〜」みたいなイメージを持って来ても、実際は「お前なにやってんだぁ!」って怒鳴りますからね(笑)。製造現場は相当厳しいですよ。それでもきちんとスタッフに定着した子は、勝山に移住して、近所に住んでいます。


それは、今後、生産人口をどう担保していくかが大きな課題の田舎にとって、若者の移住促進はなによりも大きい地域貢献です。


イタルさん なにより、マリと二人でやっていた頃より、みんなでパン焼いた方が楽しいですよね。朝も昼も一緒にご飯食べますし。

スタッフの勤務は水曜から日曜ですが、木曜から日曜までしか店は営業しません。水曜は基本的に仕込みで、お昼にはスタッフ全員で2時間くらいゆっくり昼ご飯を食べ、ミーティングをするんです。木曜からの製造にエンジンを掛ける意味で。そこで色々話したりするのがいい時間です。


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撮影;パン屋タルマーリー

「商いを飽きない」

最後に、「小商い」で働いていくことで大事にしていることを教えてもらいました。


イタルさん “あきない”です。商いを飽きないこと。そのために、天然菌だけでパンを作り、わざと難しいレシピにしたりしています。

そして作業をマニュアル化しないこと。それは現在主流の、生産効率を上げる働き方とは真逆を行きますね。ルーティンにするとその日の売上げが立てやすいんですけど、それをすると飽きてきちゃうんです。仕事にも商いにも。

例えばラーメンだって、つくることに飽きた人が作ったものより、生き生きと楽しく作られたラーメンの方が、きっと美味しく食べられると思うんですよね。毎日同じものを作っても飽きない技術を持っている職人もいるんでしょうけど、僕の場合はできるだけ、毎日何か違う発見ができるような働き方にするために工夫しています。


パン作りでは、ミキシングなど土台となる技術は、きちんと体系化された技術を用います。しかし、天然の菌を相手にすると、日々状況が異なるそう。菌の状態によって温度や時間を調節しますが、次の朝起きてみると、予想と違うときもある。それをどうやって処理していくのか。菌と向き合い、考えて動くというところに楽しさがある、とイタルさんは言います。


あと、楽しいっていうのは、ものすごい努力をした後にあるものだと思うので、そこはスタッフにも「そんなに簡単に楽しいわけねぇ」って言います。
すごい試行錯誤してがんばって作って、お客さんが、美味しいねって喜んでくれた後、酒でも飲みながら「今月はがんばったな」って労い合う。そういう楽しさを求めたいなと思ってますね。

それが、職人として生きるということ。職人はモノを作る事を突き詰めていかなければならないので、絶えず楽しい時間っていうのはあり得ない。でも、そこに楽しさを見出す。パン屋タルマーリーとしてはまだまだですけど、これからもっともっと良い集団にしていきたいと思います。


タルマーリーは、自分達が納得した商品を作り、丹誠込めた商品に適正価格をつけて、私たち消費者に提供しています。文章にしてみれば、それは本当に至極真っ当当たり前の“商い”ですが、それが希有なものとなり、もてはやされるようになったのはなぜでしょう。

素材も拘りも技術も愛情もきちんと入った本物のパン。そのパンにお金を出すのと、利潤を欲し、大量生産したパンのような形をしたモノ、貴方はどちらを大切な人に食べさせたいですか?

タルマーリーが成功しているのは、彼らの「小商い」の素晴らしさ。そして、私たち消費者一人一人が「選んで」起こした革命。タルマーリーのパンを食べ続けたら、世界が変わるかも……?そして、誰しも一つはある拘りを「小商い」にしてみたら…?可能性の芽吹きはそこかしこにある、と思いました。

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