住宅密集地の狭小住宅で"住空間の拡大"と"周囲との調和"といった相反しやすい要素の両立、狭小住宅の開放性の獲得を目的とし、狭小住宅の新たな可能性を模索した二世帯住宅である。
21坪の旗竿敷地に、二世帯分の住空間、住環境、開放性を確保するためには敷地の有効利用が必須であるが、いわゆる居室としての内部空間の拡大だけでは敷地境界からの50cmの外壁後退義務により妙な隙間・無駄が出来る。その隙間は周辺環境に対して良好とは言えない場合が多い。全てを内部とするのではなく、内部の外周に外部よりは内部に近い半内部を敷地一杯に拡大することで、住環境として敷地の最大限の有効利用と周辺への圧迫感の軽減、距離感の確保といった「周囲との折り合い」を目指した。1階はバリアフリーの施主ご両親寝室と水回り、2階に共有のLDK、3階に施主世帯寝室を配置し、諸室を縦に積み重ねることで狭いながら二世帯の共存を成立している。寝室は周囲からプライバシーの確保が求められ、リビングには空間の広がりが求められる。開きたい部分と閉じたい部分が縦に積み重なる構成をとっている。既存万年塀を半内部と外部の境界と捉え、その鉛直方向に半内部の柔らかい表皮を延長し、住空間を敷地一杯に拡大している。
各階平面の水回りと居室との間に一枚のRC壁(厚み200mm)を配置し、さらにインフラ供給や収納などを背負う北側にもう一枚のRC壁(厚み300mm)を直行するように配置している。この2枚の RC壁を耐震要素とし、それ以外を木造とすることで工期短縮、コスト減額を計ると共に「意匠で必要な壁がそのまま構造である」という内外の関係性を強化するように意匠・構造を計画している。各階木軸は集成材210X90@455を配置。2階の一部を吊り下げる屋根梁のみ360x90@455となっている。耐震要素となる直行するRC壁は屋根階、3階、2階半内部の荷重を支える柱としても機能し、「大黒壁柱」となづけられ施工が進められた。3階寝室周りに必要な外周木壁を梁としてみたてることで、二階LDKに柱を落とさず、平面的な広がりと半内部への連続性を最大限に確保している。半内部を構成しているグレーチングとステンレスメッシュは、外周に配置されたテンションロッドにより屋根梁から吊り下げられ3階外周壁を介してRC壁へ荷重が伝達される。
半内部とその表皮は周囲に光と風と距離を提供する"靄(もや)"として成立し、"靄(もや)"の中で住環境は敷地一杯まで拡大する。
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