建設当時三十歳手前だった夫婦が建てた家です。
予算は少なく、そこで暮らすことができるなら倉庫のようなもので良い、そう二人は考えていました。大切にしたことは、その内部にどのような光を採り入れるかだけ、だったのです。
神奈川県横須賀市の古い分譲住宅地に建つ家です。建設当時、建主は大きさについても、仕様や仕上についても、夫婦二人が住むのに不足がなければ、それで十分と考えていました。
計画を進行するにあたり、外形7.2m角の立方体を、この住宅のための基準となる大きさとして選択しました。そしてそこからユーティリティースペースなどの必要な機能を確保し、その後に残った空間が、彼らにとっての家となりました。
五つの光の孔(窓)を、外とこの空間を関係付けるものとして設けました。一日を通して、また季節の移ろいと共に、光が窓から様々な様相で入ってきて、刻々とその表情を変えてゆきます。光とそのための開口部のデザインが丁寧に扱われ、この空間に生命を吹き込みました。そこは光のシークエンスと共にある静かで穏やかな場所になったのです。
竣工からはや28年、今も変わらず、移り変わる静かな光をその内部に湛えています。内部はほぼ竣工当時のまま保たれ、シンプルでありながら、表情豊かな住まいです。
びっくりするくらいニュートラルな空間です。
天井高さ4.5Mの吹き抜けに設けた東側の黄色い高窓を開ければ朝の光が差し込んできます、午前中は南東の角に設けた地窓から、午後は南側のテラス戸から、と一日を通した光が移り変わってゆき、夕方は西側の電子の光(TV)に至るという具合です。夜、吹き抜けに面した黒い窓を開ければ二階の書斎スペースにつながります。
一階は一室空間ですが、LDKと台所の間に設けた収納家具(天井までは届かない1.8Mの高さ)を介してゆるやかに分離/接続し、ぐるっと回れる平面になっています。また、勝手口・キッチン・洗面脱衣室・便所を一直線上に配置した無駄のない暮らしやすい計画になっています。
予算的に大変厳しかったため、工事見積書の項目を一つ一つ細かく精査・検討し、決断することが必要でした。しかしそのおかげで、ここに住む夫婦にとって本当に必要なものは何か、ということをじっくりと考えることができたように思います。
その過程があったからこそ、28年たった今でも、多少の経年変化はあるものの、大きな修繕や改修などを行わずに、ほぼ原形を保ち続けているのではないでしょうか。
資料請求にあたっての注意事項