歯医者さんに行く前に何を思うだろう。「どのくらい削るのかなあ。痛くないのかなあ」そんな気持ちを楽にすることは出来ないが、建築に出来ることも何かあるんじゃないか?
そんな問いから設計を始めた。
シンプルで清潔な外観があればいい。そして、その場にしかない時間に何かを加えることが出来たら。
具体案として、診療室で長い時間向かい合うことになる「壁」に機能を持たせれば良いのではと考えた。
もしそこが大きなアートスペースの一部だったなら......歯型を取るためにじっとしている時間を、新しいものに触れる時間と交換出来るかも しれない。
そこで現代美術の作家、森野晋次氏とのコラボレーションを考えた。出来上がった空間に後で作品を据えるのではなく、設計段階から模型による検討を繰り返し、互いに納得できる点を模索した。
簡単ではなかったが一方通行ではない関係の中で完成に至ったと思う。
診療室に入ると、壁がいつの間にか天井となる柔らかな曲面が出迎える。これは、訪れる人の気持ちを少しでも和らげたいという気持ちを具現化したもの。診療イスに座ると視線の先には大理石のアートワーク。床面からの照明と高い 位置から入ってくる 自然光によって、刻々と移ろい行く姿を見せる。
この試みに患者さんがどんな気持ちになるかは想像するしか出来ないが、せめて家族との会話のきっかけにでもなれば......。
『つるみ歯科クリニック』では、優しい歯科医師がスタッフと共に迎えてくれる。そして、時間を交換出来るかもしれない空間がある。
《つるみ歯科クリニック》
住所: 大阪市平野区瓜破2丁目7-6
■2008年1月23日発行の『商店建築3月号増刊 clinic&office』 (商店建築社)に紹介されました。
■その他の作品は→ http://www.atelier-m.com/