敷地は朝倉市(旧甘木市)、朝倉街道に面する門よりさらに奥に入った、築90年の屋敷内である。中門より玄関への路地と表庭を、Ⅼ型に囲むように主屋が建っている。
当初の設計依頼は敷地隣の空地にギャラリー、カフェ等を設けることであったが、屋敷内にそれらを計画することを提案した。
最終案としては、表庭に離れのかたちでギャラリーを設け、主屋の次の間、座敷、居間を、カフェ、店舗、さらにコンサート等様々なイベントも可能な空間へと新たに生かそうとしたものである。
ギャラリーは5.1m×4.5mの矩形平面の主屋側2辺を大きく開口とし、反対2辺を展示用壁とした。深い庇とコンクリートの縁を回し、軒高、各部スケールに注意を払うことによって、瓦屋根の主屋と呼応する形とした。既存の木の間を抜けるアプローチ正面を黒い鉄板壁が受ける。透かし煉瓦塀による適度な閉じと透け感等、敷地全体にわたる一体感に注力した。木々の緑、木漏れ日の中、寛いでアートを見て感じることが出来る。
主屋の座敷は、当時の地方における大工の優れた技術水準を窺わせる造りである。ここでは、特に新しいデザインを施すのではなく、壁は後の塗り材を剥がし、元の漆喰塗りにする等、建築時の状態に戻すことを旨とし、新築のギャラリーとの対比的な調和を目指した。
時を経たものの価値を尊重すると共に、この家に関わられた人達に流れてきた時間をリスペクトし、大事にしたいと考えた。
ギャラリーと主屋が、庭を介して相互に向かい合うことによって、刻々と移り行く光や緑の中、単独ではあり得ないような場が様々に生じるよう意図した。時間と共に埋もれ、荒れかけていた屋敷を、次世代に引き継ぐ空間として、新たな息吹を与えることが出来たのではないかと感じている。
photo by:石井 紀久
【 第12回 建築九州賞 作品賞(最優秀賞) 】
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