ひとり暮らしのためのシンプルな家を望んだ住まい手。光の陰影が美しいギャラリーのような空間で、好きなものに囲まれて過ごす時間。
text_ Satoko Hatano photograph_ Hiromi Asai
茅ヶ崎の家
神奈川県茅ケ崎市
〔設計〕手嶋保建築事務所
切妻屋根とライトグレーの外壁が印象的な住宅。小さくとも凛とした佇まいの住まいで営まれる静かで充実した生活は、施主であるTさんの潔い決断の産物だった。
数年前、自宅の建て替え計画中にご主人が急逝。悲しみと不安のなか、今後の生活を再考する必要に迫られたTさんは、「ひとりで暮らす」決断を下す。結婚して近所に住む娘たちと同居するという選択もできたが、60歳を目前にした当時、「できるだけ自立していたい」と考えた。
150坪程あった敷地の約半分を手放し、ひとり暮らしに足る規模にリサイズ。それまでハウスメーカーと進めていた家づくりもリセットした。家族のための家づくりでは表に出なかった要求が、自分のための家づくりでは明確になり、Tさんは「建築家といちからつくる」ことを選ぶ。
自分の感性に合う建築家を娘さんと共に雑誌やネットで探し、行き着いたのが手嶋保さん。設計に際しては、手持ちのアンティーク家具や雑貨など「好きなものに囲まれた暮らし」と、「年を重ねても動きやすいシンプルで機能的な家」をオーダーした。
1階は、玄関からリビング、ダイニング、キッチン、寝室、浴室、収納を備えた通路までが、フラットな土間床で続く一体空間。スチール階段でつながる2階はゲストルームと書斎、クローゼットという構成だ。
「Tさんのイメージや要求にはブレがないんです。使い勝手を求めて無駄を省いたワンルームプランは一見過激ですが、そこでの暮らしが想像できるうえに、住みこなすセンスと決断力をお持ちでした」(手嶋さん)
キッチンを中心にフロアを回遊できる動線や、寝室に隣り合う水まわりなど、スムーズな生活動線を叶えるプランを見て、即座に気に入ったTさん。「家具を壁際に置くと部屋を四角く使えない」など、実際の暮らしをイメージしながら手嶋さんに要望を伝え、結果、ニッチ状に外側へ押し出された部分を設け、トップライトからの光がお気に入りの家具や壁に飾った小物を照らす、ギャラリーのような空間が出来上がった。
「年々家で過ごす時間が長くなるので、快適な家に建て替える時期を逃さないでよかった。迷っている間に月日は経ってしまいますからね」
と、人生初のひとり暮らしをポジティブに楽しむTさん。暮らしの中で培ったセンスと感性を信じた決断で、自分仕様の住まいを手に入れた。
〈物件名〉茅ヶ崎の家 〈所在地〉神奈川県茅ケ崎市 〈居住者構成〉大人1人 〈用途地域〉第二種中高層住居地域/第一種低層住居地域 〈建物規模〉地上2階建て 〈主要構造〉木造 〈敷地面積〉165.29㎡ 〈建築面積〉90.60㎡ 〈床面積〉1階 73.35㎡、2階 40.70㎡ 計 114.05㎡ 〈建蔽率〉54.81%(許容55.81%) 〈容積率〉68.99%(許容130.29%) 〈設計〉手嶋保建築事務所 〈施工〉マスノ 〈設計期間〉6ヶ月 〈工事期間〉6ヶ月 〈竣工〉2007年
Tamotsu Teshima
手嶋保 1963年 福岡県生まれ。87年 東和大学工学部建設工学科卒業。90~97年 吉村順三設計事務所。98年 手嶋保建築事務所設立。2010年~ 東京理科大学非常勤講師。社団法人日本建築家協会正会員、登録建築家。
手嶋保建築事務所
東京都文京区春日2・22・5・515
TEL 03・3812・2247
FAX 03・6319・1455
mail@tteshima.com
www.tteshima.com
※この記事はLiVES Vol.60に掲載されたものを転載しています。
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