街の風土と歴史を継承する
敷地は、史跡や寺院の多く残る歴史深い地域に位置する。道路からのアプローチに沿って大きな既存母屋と物置が向かい合い、その奥に背の高い倉庫が視線を遮るように建っていた。建主は、両親と同居する2世帯住宅を求め、既存倉庫の解体と合わせて、母屋の改修計画から設計を開始した。しかし、2019年に東日本を襲った台風19号によってこの地域一帯が浸水。敷地の入口付近まで水が迫った経験から、災害の発生を考慮して母屋を建て替えることとなった。
水害状況を調査していく中で、建主のご両親から、過去にも何度か河川が氾濫した歴史があったことを伺った。その視点で地域を見ると、いくつかの古い住宅が地盤面を周囲から立ち上げ、田園風景の中に浮かぶ小さな島のような建ち方をしており、その佇まいがこの街の歴史を継承している。新しく計画する建物も街の小さな歴史に加わり、この地域の風土を継承していくものでありたい。
そこで、既存母屋と倉庫を解体した敷地の長辺方向に、15間の長さをもつ1枚の屋根と床を配置した。平面プランは、屋根下の左右に親世帯と子世帯の住居を計画し、中央に共通の玄関ポーチを設けた。地面から浮いた1枚の床は、1間ピッチに連続する布基礎に土台を交互に直行させ、井桁状に組むことで構成した。床下空間をつくらずに土台と基礎間を開放することで、床下浸水や湿気等による腐食を防ぎつつ、目視による状態確認や将来的なメンテナンスのしやすさに配慮した。エアコンの室外機や給湯器なども壁付けとすることで、災害時に水没することを防いでいる。
1枚の屋根と床が、集まって暮らす小さな領域をつくり、その佇まいが地域の風土と歴史を繋ぐ。それは家族にとっての家と、風土としての家を同時に実現することである。災害という経験によってこの場所を否定するのではなく、むしろこの場所の歴史に確かに根ざすことを表明する家を目指した。
Photo|新建築社
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