みなさんにとって親近感のある街はどこですか?その街の歴史に触れたとき、なにげなく見ていた風景が恋しくなったとき、私たちはさまざまな瞬間に、街に親しみを覚えるもの。
今日は多くの人々に街への「ありがとう」の気持ちをも芽生えさせ、地域を変える立役者となった、とあるベンチをご紹介します。
舞台はカナダの第三の都市、バンクーバー。もともとバンクーバーは林業や漁業で発展した、自然に恵まれた街でした。しかしあまりにも急速に産業が拡大してしまったために、森林資源の原産地となっていた地域は次第に衰退し、スラム街となっていました。
そこで立ち上がったのが、カナダのインダストリアルデザイナーRodrigo Caula(以下、カウラさん)ら3人のチーム。彼らは捨てられていた古いモミの大木を手に入れ、「Ingrain」というベンチをつくり、広場に置きました。するとその地域の人々は自分たちの持つ文化的遺産や自然の恵みを誇りに思うようになり、かつてはスラム街であったその地域は都市の再建の象徴として人々から認識されるようになったのです。
どうして、ベンチを置くことで街が変わったのでしょう?その秘密は「Ingrain」の活動に共感し、応援する人々の動きにありました。
「Ingrain」のコンセプトは「地元の素晴らしい資源を尊重し、地域のストーリーをいかして暮らしをつくる」というもの。樹齢200年という大木からベンチをつくることは、そのまま住民とバンクーバーの歴史を伝える絶好の機会だったのです。
そんなカウラさんらの活動に共感した人々は、自分たちの持つ資源の貴重さを学び、その気付きを人々に伝えてゆきました。ポスターやガイドブック、バッジなどもつくられ、「Ingrain」は大きなムーヴメントとなったのです。カウラさんも、「多くの人々が、自分たちが住む土地への深い感謝の気持ちを抱いた」と語ります。ちなみに、ウェブサイトもプロジェクトを応援する人たちのもとで現在製作されています。サイトの構想を表した動画がありますので、チェックしてみてください。
Ingrain Project Website – 1080p from bbbrigui on Vimeo.
日本にも、街に親しみを抱かせるプロジェクトがあります。例えば「石巻2.0」のプロジェクトの1つ、「オープン!!イシノマキ」は、20枚の写真が載ったポスターをお店に貼り、そのお店の過去から復興段階の今まで写真を通して知ることで、いままで知らなかった石巻の新たな魅力を発見してもらおう、というプロジェクト。
実際に取材で石巻に訪れ、アイトピア通り中心にたくさんのお店のポスターを通して創業時の様子や被災前の様子に触れたことで、私個人も石巻とそのお店に親近感を抱きました。
仕事のために移り住んできた街や、観光で訪れた場所に対しては、街の魅力に触れることが少なく、どうしても親近感をなかなか抱きづらいところ。そのために、自分が住んでいる街に親しみを感じられていないという人も、少なくないのではないでしょうか。
そんな人たちのためにも、街に対する地元への誇り=シビックプライドを高められるようなこんなアイデアが、今後求められるかもしれませんね。
[via treehugger]
(Text:緒方康浩)