千葉郊外の美容室のインテリア計画。
美容師であるクライアントの独立後一店舗目となる今回の計画に際し、クライアントからの要望は一言でいえば「美容室らしくない美容室」であった。
美容室は機能的制約が多く思われるが、よくよく考えるとそこで行われる行為はいたってシンプルである。機能面だけをいえば住宅よりもずっと制約が少ない。ベトナムの理髪店は青空の下の道端に椅子とパラソルがあるくらいだ。すべてが何気ない空間の中で、たまたまそこで髪を切っているという雰囲気をつくりだしたいと思った。
店舗は6階建てRC造の新築マンションの1階で、天井高が3mであること以外は取り立てて特別な感じはしない。そこを単に白く塗ってシンプルにつくっても、それは目指したい「何気なさ」ではない。人がそこに留まりたいという雰囲気は生まれない。
天井裏に70cmくらいのスペースがあったので、そこでまず天井をはがし天井高を3.7mにした。ここまで高くすると背の高い人でも倍以上の高さとなるので、店舗内が外部の延長のような感覚に変わってくる。
次に大きな4枚の木の板を立体的に配置して、空間に感覚的な「勾配」をつける。機能的にはそれは間仕切であったり棚であったり玄関扉であったりするが、寸法やプロポーションが通常のそれとは大きく異なるので、あまりそのようには見えない。どちらかというとたんに大きな4枚の木の板があるといった感じ。
そこではお客さんが「用意された空間」で整髪されるというのではなく、木の家の軒下で髪を切ったり、木蔭で髪を洗ったりというような感覚に近づけたいと思った。
4枚の木の板には素材感とコスト面を考え、杉の足場板を使った。それだけではところどころに木の芯の赤や黒い部分も混ざってきてしまうので、白い自然塗料を拭取り塗装して全体的に薄化粧させている。杉足場板の表面はすべらないように粗い鋸跡があるが、それを削って平坦にせずそのまま使用している。同様の材を使って店舗内のいくつかの家具もつくっている。