新潟県聖籠町・農村集落にたつ平屋の建替である。
農村が古くから築いた農の文化。土と太陽を共にした体験による営みが至る所でアウトプットされている。自然の恩恵に呼応する人々の農に対する日々の努力が滲んでいる。集落の心底に潜む記憶のネットワークの形づくりを、じっくりと発見、踏襲、表出することに執着した。集落の各母屋はお互いの距離を保ちつつ平屋であり太陽に反応して東西に長い。また玄関を南へ凸に張り出し手前から奥への掛け渡しの間がある。集落に生まれる固有性。
建替に際し、集落内の連鎖空間でもある南玄関=社交空間を解体せず、アプローチ動線へ転用することとした。挨拶を交わしこうべを垂れる空間が継続される。玄関の屋根は、鬼瓦を含め希少な安田瓦を旧家屋から移設し再度葺き替えている。更に古えの木加工、大工の技術を露わにし、スケルトン化した4寸角の杉柱立ちを縫うように新居へ繋がる計画とした。
スケルトンのシークエンスとして、新居には3.5寸角の下越の杉材を表し、構造材は3.5角材ですべてを賄うこと、かつ羽柄材も3.5寸ベースの県産杉材を利活用している。古き家屋は地場の素材と地場の大工の腕が担っていたであろう、35houseも然り、新潟の杉を材木屋から調達し、大工の技術を信頼しプレカット工場を介さず彼らの巧みな刻みにより軸組を構築している。
木造軸組工法として、新潟の杉・最弱ともいえる3.5寸角材で規定の積雪量を対象に頬杖トラス構造を採用している。設計積雪量120cmの多雪区域でありながら1間半(2730mm)スパンに対して方杖を使いながら屋根を支持している。均等スパンの方杖を両側に配置することで柱に大きな応力が生じない様に配慮している。屋根の構造耐力からトラス組は桁方向に1365mm間隔となる。旧家屋の大きな赤松梁に代わり新潟杉のトラス組が空間に対して程良いリズムとアクセントを創り出している。弱き素材で集落に習ってのびやかな東西の長さを演出している。
最小限のもので構成された「足らぬもの」ではあるが、ごくごく身近に存在する「魅力的な事柄」に虫眼鏡をあてて紡ぐことによって生まれた住まいである。
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