建主は共に定年退職し、子育てを終え、親の介護も経て看取った末に、これから自分達の老後のために新たな住まいを建てることにした老夫婦と同居する娘、そして猫2匹。敷地は1980年代前半に開発された宅地造成地で、近隣にも高齢者が多い。以前はこの敷地のほど近くの別の住宅で暮らしており、そこで特に親の介護において狭い廊下や出入口、直角の多い動線で味わった苦労は、自分達自身の将来の介護・車椅子での移動を見据えると避けたいものとして強く要望された。また、趣味の園芸や駐車スペースといった屋外の使い方や、建物の環境性能、猫が楽しんで暮らせることも重要視された。各諸室ごとに必要と思われる大きさのボリュームを設定し、それを並列するのではなく、鈍角ないし真っ直ぐ隣のスペースへ行けるように繋いでみることにした。そうすることで動線としては遠回りになるが、緩やかなカーブを描きながら回遊して生活する平面計画となる。主動線の結節点には和室があり、これはリビングやダイニングの延長のような使い方もできるし、将来介護ベッドを置くのに寝室に押し込めてしまうのではなく、どのスペースへもアプローチしやすく、且つ、家族の目が行き届きやすい場所とすることも意図している。玄関の大きな土間は園芸のちょっとした作業をしたり、畑を眺めながらお茶をするといった使い方を想定しているが、将来スロープを設置するための引きしろでもある。各ボリュームはそのスペースで居心地の良い空気の量、光の入り方、雨の落ち方などから高さや屋根の向きを決めており、位置も大きさもバラバラに取り付いた窓は、内外にさまざまな角度の視線の抜けを作り出し、家族同士、または隣近所とのほどよい距離感を保ちながら控えめな接続を促す。避けられない老いを受け入れ将来への備えをしつつも、長年の忙しない日々から解放され、やっと手に入れた自分達の時間を新たな場所で豊かに過ごせるよう、そっと生活の補助線を引き直した。
以前住んでいた住宅で親の介護において、狭い廊下や出入口、直角の多い動線で味わった苦労は、自分達自身の将来の介護・車椅子での移動を見据えると避けたいものとして強く要望された。そこで私たちは各諸室ごとに必要と思われる大きさのボリュームを設定し、それを並列するのではなく、鈍角ないし真っ直ぐ隣のスペースへ行けるように繋いでみることにした。そうすることで動線としては遠回りになるが、緩やかなカーブを描きながら回遊して生活する平面計画となる。家族同士、または隣近所とのほどよい距離感を保ちながら控えめな接続を促す。避けられない老いを受け入れ将来への備えをしつつも、長年の忙しない日々から解放され、やっと手に入れた自分達の時間を新たな場所で豊かに過ごせるよう、そっと生活の補助線を引き直した。
ASD
吉田建築所
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