この家は東京・南荻窪の住宅地にある。敷地は南を近接する隣家に塞がれ,南東を朝夕多くの人が行き交う地域の生活道路に蔓する。外の視線から生活を守るため敷地の南角を壁で囲み小さな中庭を設けた。植栽を施された中庭を介して家の内部と外部との間には,季節の移り変わりと天候の変化につれて多様な関係が生まれる。
建物は中庭を取り巻くようにL型に配置された。アプローチを曲蔓状の錆びた鉄板で囲み,外に対して硬い殻をつくると同時に,木漏れ日がガラスに映る玄関に柔らかく人を招き入れる。奥へと連続するその情景は,中庭に開放された居間へとさらに人を誘う。居間は隣接する食堂へとつながり,北西の壁に沿って階段が上階へと導く。ここは家の中を動くたびに必ず中庭の風景と出会う場所であり,中庭を見ながらゆったりと落ち着いた時を過ごせる場所でもある。
建物の計画は中庭との関係を基軸にすると同時に,刻々と変化する太陽の光と風の流れを取り込み,単純な構成の中に生き生きとした動きが生まれるように進められた。
一日を帳して家全体に流れ込む光は壁を照らし,あるいは回り込み薄暗がりを作り出す。この家を巡るにつれてその内部は中庭の風景と相まって極めて多様な情景を展開する。日常的な生活の動きに伴う空間体験の連なりが家族それぞれの心に新鮮な感覚と奥行きを与える。
地上で生きることの豊かさを日々発見することにより,住まう家族の心が社会生活の重責から解放され,生きる喜びを共有し交わりを深くする。親子4人が共に生活する幸せを感じられる家がここに生まれることを願った。
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