飲食店や住宅が入り混じる西荻窪の路地に
建つ小さな一戸建て。施工をきっかけに、
住む前からご近所づきあいをデザインする。
text_ Yasuko Murata photograph_ Kai Nakamura
いえつく5
東京都杉並区
〈設計〉いえつく
〈 住まい方 〉街とひととつながって暮らす
〈 住人 〉角田大輔さん(34歳)、美花さん(34歳)
西荻窪の駅近くの路地の一角に、木造2階建ての一軒家を新築したのは、角田大輔さん、美花さんご夫妻。大輔さんは建築関係の企業に勤める会社員、美花さんは自宅でネイルサロンを営んでいる。
「地域に根ざした暮らしをしたいという思いは、昔から抱いていました。住宅や商店が混在したこの路地を見たとき、暮らしが通りに拡張していくように、ご近所との関係をつくっていくイメージが湧きました」
そう話す大輔さんは、学生時代の仲間による設計チーム「いえつく」のメンバーとして活動しており、自邸の建築も「いえつく」プロジェクトとして進めることを決めていた。
「地域を西荻窪全体と考えると大きくなりすぎるのですが、ヒューマンスケールな路地に焦点を絞ったとき、『通りに住まう』というコンセプトが出てきました。そこからプランとご近所付き合いのふたつをデザインすることを考えていきました」
とは、「いえつく」メンバーのひとり、水野義人さん。プランには、近隣との関係性を生み出す縁側的な要素を盛り込まれている。大きな窓を設けた玄関土間には大谷石や砂利を配し、2階のネイルサロンやリビングに続く通路の床には古い枕木を使い、上部は吹き抜けに。屋外のような雰囲気の空間にすることで、外からひとを招き入れやすい空間となっている。
この外部的空間に面した居室の壁は外壁のような板壁で仕上げ、1階にある寝室と浴室のプライベート感を高めた。一方、2階のネイルサロンとリビングはガラスの建具で開かれた印象にして、親しいゲストを内部に引き入れるつくりとしている。
ご近所付き合いに関しては、家が出来上がるまでに、近隣の人々と関係性をつくる方法を考えていった。
「着工の挨拶カードを手作りしてご近所さんにお渡ししました。施工中は、通りを歩くご近所さんたちに家型のボードにメッセージを書いてもらって、養生シートに吊るして公開するという企画も。住み始める前でも、コミュニケーションの方法はいろいろあるなと思いました」(大輔さん)
新居が完成した際に催した「ご近所祭」には、予想以上の数のご近所さんが集まり、大盛況となった。
「ご近所付き合いがあると、将来の子育てを考えたときにも安心できます」
と美花さん。角田さん一家とこの通りがどのような時間を重ねていくのか、ストーリーの続きが楽しみだ。
〈物件名〉いえつく5 〈所在地〉東京都杉並区 〈居住者構成〉夫婦 〈用途地域〉第二種中高層住居専用地域 〈建物規模〉地上2階建て 〈主要構造〉木造 〈敷地面積〉60.00㎡ 〈建築面積〉35.95㎡ 〈床面積〉1階 35.95㎡、2階 35.95㎡、階段室 1.89㎡ 計73.79㎡ 〈建蔽率〉59.92%(許容60%) 〈容積率〉122.98%(許容160%) 〈設計〉いえつく〈デザイン協力〉PEA 〈施工〉渡邊技建 〈構造設計〉 鈴木芳典 〈設計期間〉8ヶ月 〈工事期間〉6ヶ月 〈竣工〉2011年 〈総工費〉2,250万円
Ietsuku
いえつく 大学の仲間6人で2005年から活動をスタートした、週末デザインチーム。メンバーはクリエーターとして、それぞれの企業に所属。週末や夜の時間を使って、国内外で活動中。メンバーは三谷健太郎、水野義人、多田直人、角田大輔、穂積雄平、石畠吉一。
ietsuku.com