建築主から手書きの図面を渡されることがある。
1,2度はあるとしても何度も渡されることは少ない。
経験上、そのやり取りは設計者側からすると不安の大きいやり取りになる。
当たり前だが、意匠、構造、設備、敷地の周辺環境、建築基準法、自治体の条例、
使い勝手、納まり、配色のバランス、素材のなじみやすい組み合わせ、等を考慮しての
プランであることはない。
だが、裏返せば言葉には表せないその強い思い入れを
なんとか伝えたいということかもしれない。
最初にお会いして完成まで約2年の時間がかかった。
建築主が持ってこられる図面をしっかりと理解して、
手を変え品を変え、本人も気付いていない内容を言語化したり、図面化したり。
毎回、打合せ時間が3,4時間が当たり前で
プラン打合せだけで1年近く経っていたように思う。
着工後もひたすら打合せを重ねた。
振り返れば建築主はひたすら自分の理想の要望を。
設計者はそれを踏まえつつ、構造、使い勝手、意匠性等を考慮した提案を。
お互いに苦闘の時間を過ごしたが、
それぞれが精一杯に自身のすべきことを成したからなのか、
最後の完成検査の時にはこの約2年とは真逆のいたって穏やかな時間が流れる検査だった。
建物を引渡した日の帰り道、
ふと振り返ると、坂の上に聳え立つように高台の家が見える。
私なりに筋を通して設計監理を行ったが、
結果、良い仕事ができたかなと思いながら帰路に着いた。