白の格子 - 転移する街並みへの処方
「人間の欲望は他者の欲望である」 ジャック・ラカン
東京都渋谷区に建つ医療系のテナントビル。1,2階には飲食店と薬局、セットバックした3~5階にはクリニックが入る。敷地はJR恵比寿駅西口から徒歩数分、「恵比寿銀座商店街」に面する。名称に漂う昭和の面影はもはや薄れ、雑然と看板がひしめき合う、駅前商店街の典型的な風景が広がる。このような街並みにあり、長期的に記号の海を舵取りできる柔軟性と中立性、医療系ビルとしての視認性、これらの特性を併せ持つファサードを探求した。
まず既存の街並みにレベルを合わせ、白の格子フレームとガラスによるレイヤーを、街の低層部に挿入する。格子はいわば抽象的な線の「クロス」である。 鉄骨部材のクロス、医療を象徴する白十字、行き交う人々のクロス。様々な交差の様態が、ロゴの "CROSS" より示唆される。だが、ひとたびその空隙が風景で満たされれば、格子は内と外を二重に映しだすフレームと化す。格子にふちどられた個々のテナント空間は、街ゆく人々の視線を誘うショーケースとなる。片や、ガラスに映り込む商店街の鏡像は格子越しに分割され、看板や街灯、窓、サイディングといった、街の風景を紡ぐ様々なエレメントへと還元される。
1,2階の天井付近に設置されたサイン用木製パネルは、利己的にこぞって突出する袖看板にとって代わり、街のアイレベルに親和性を呼び戻す。EVホールへと至る家型のエントランスは、上階のクリニックを訪れる患者を温かく迎え入れる木のトンネルとなる。白の格子越しに重なりあう内外のエレメントが、他者のまなざしや欲望を媒介し、転移を繰り返す街の現在に気づくとき、人はこの街の未来に何を思い描くであろうか。
(その他の写真は下記サイトにて)
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