今、気になるキーワード「小商い」。そこには、自分の”好き”を見つめて生業にしたい、まちや社会とつながりたい、といった背景があるように思います。「特集 小商い」は、好きに暮らすイメージをつくるための連載です。
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ダイニングから店舗の吹き抜けを通じ、外が見えます
東京都豊島区、東長崎の住宅街の一角に北欧雑貨店「Fika(フィーカ)」はあります。建築家と建てたという住居兼店舗は個性的な趣の、延床面積約60平方メートル、地下1階・地上2階のこじんまりとした佇まい。昔ながらの昭和の空気を残す住宅街になじんでいます。店主の塚本佳子さんはここで平日はフリーランスとして編集や執筆の仕事をこなし、週末は地下の店舗で北欧の雑貨などを販売しています。
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塚本佳子さんはフリーランスの編集・ライター。週末のみ「北欧雑貨と日本の器 Fika」の店主
週末も店舗にずっとつきっきりなわけではありません。1階のダイニング兼仕事場で編集や執筆の仕事をしながら、お客様が入って来たときに降りていって接客するという感じ。地下から2階まで吹き抜けているから、家のどこにいても音でわかるんです。好きなものを、のんびりと売っています
と、塚本さんは話します。
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店舗の様子
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住居兼店舗の外観。とんがり屋根や木のドア、大きな窓が印象的
塚本さんは現在、40代。30代までは編集プロダクションに勤め、さまざまなテーマの雑誌や書籍を担当。仕事一辺倒の日々を過ごしていました。30歳を超えたころに、将来を見据えて今の仕事以外の何かをやりたい、何かひとつのテーマを決めて店を立ち上げてみたいという気持ちに駆られ始めたのだといいます。
最初はカフェでも、雑貨店でもなんでもよかったんです。ただ、何かのテーマを突き詰めたい、という想いが強かったですね。35歳ごろに偶然、北欧の食器や雑貨を買う機会があって、興味を持ちました。そこで、インターネットで北欧の食器や雑貨について調べ始めたところ、北欧のビンテージ雑貨のブログがたくさんあって、人気が高いと気づいたんです。自分の店で売るものを見つけた! と思い、早速北欧に買い付けに行きました
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この棚は北欧・フィンランドを代表する陶器メーカーのARABIA(アラビア)の商品が中心
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上の棚にはFINEL(フィネル)社のホーロー製のコーヒーポット。店の棚には商品だけでなく私物も飾っているそう
ところが、その旅程半ばで、塚本さんのお父様が急逝し急ぎ帰国することに。この出来事をきっかけに、塚本さんは人生はいつどうなるかわからない、やりたいことをやろうという気持ちを強めていきました。週末だけのお店をやろうと決めてはいたものの、どこで始めるかは決めていませんでした。いろいろな条件を検討した末、まず都心に住居兼店舗を建てようと思い立ちます。
新築のマンション、中古マンションのリノベーションなども比較検討しましたが、管理費や近隣との関係のわずらわしさなどが気になりました。月々支払うローンがほぼ同じになるなら、自分で土地を買ってゼロから理想の家を新築するのがいいという結論に至りました
建築家と二人三脚で、光と風の注ぐ住宅兼店舗づくり
とはいえ、ひとり暮らしで数千万円の資金をかけ、家をつくることにはさすがに不安があったという塚本さん。まず、土地探しからデザインの方向性の相談、建築家の紹介までまとめてサポートしてくれる会社を見つけ、家づくりを進めていくことにしました。そこで出会った建築家が西田司さんです。
敷地は約36平方メートルの変形地。西田さんには“開放感があり、明るく、将来はお店を営む”というざっくりとした希望を伝えたといいます。1回のヒアリングを終えたのち、間もなく手渡された模型は、良くも悪くも塚本さんのイメージを超えた斬新さ。そこから何度も打ち合わせを重ねて、少しずつ今の形が出来上がりました。
小さな3階建てですが、店舗は最上階まで吹き抜けていてとてものびやか。吹き抜けと居室部分を仕切るように、天井まで棚になっているんです。道路沿いには大きな窓がはめ込まれて、通りを歩くとその棚に飾ってあるものがぱっと目に入ってきます。棚には背板がないので、居室部分には光もさんさんと入るし店舗の様子も見えます
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ダイニングから店舗の吹き抜け方向を見たところ
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店舗で吹き抜けを見上げる
店を開けている週末に、あえて店にとどまらず、居室部分で仕事をするなど自由に過ごしているのは、このお気に入りの家の1か所にじっとしているのがもったいない、という理由も大きいと言います。
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1階のダイニングキッチン。中央のテーブルは仕事机を兼ねています
実は、人とのコミュニケーションは苦手なんです。でも、店舗という自分のテリトリーに来てもらえると、自分の扱うものに興味を持ってくれているという安心感から俄然話しやすくなります。時折、これから家を建てようとしている人が、我が家を見るために北海道や九州などの遠方からわざわざ訪ねてくださることも。そんなとき、最近は時間があれば、ダイニングや寝室などの居室部分までご案内するんですよ
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屋根裏部屋のような趣の2階の寝室。ロフトの下側が店舗の吹き抜けに通じ、広がりを感じます
小商いは仕事のうちの1、2割がちょうどいい
現在、塚本さんは会社勤めをやめ、フリーランスとして働いています。仕事の比重は編集・執筆が約8割、北欧雑貨の販売は約2割に落ち着いたそう。
こういったパラレルキャリアは、フリーランスの仕事の醍醐味ですね。私にはこの仕事のバランスがとても心地いいんです。このバランスが、両方の仕事を楽しめる。私は家で好きなことを、マイペースでコツコツやるのが好きなんですね、きっと。もし、北欧雑貨の販売にもっと力を注ぐつもりなら、ちゃんとチームを組んで取り組まなきゃね
お気に入りの住まいに住み小商いにも取り組み、仕事も暮らしも自由に楽しんでいいんだと気づいたことが何よりの収穫だと語る塚本さん。この心地いい生活はまだまだ続きそうです。
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グレーの外壁に木のドア、アンティーク調の玄関灯が素朴な雰囲気を醸します
建築データ
所在地:東京都豊島区長崎
竣工年月:2012年9月
設計:西田司+一色ヒロタカ+梁井理恵
敷地面積:35.66㎡
建築面積:22.04㎡
延床面積:58.58㎡
施工:大原工務所
構造:田畠隆志/ASD
Facebook:https://ja-jp.facebook.com/kurashi.fika
Text 介川 亜紀
Photo KEICO PHOTOGRAPHY
建築、不動産、都市計画、ユニバーサルデザインがフィールドのフリーランス編集者。特に、建築や都市の再生、まちづくりに興味津々で日本全国を飛び回っている。自らも約築40年のマンションに住み、自邸のリノベーションのほか大規模修繕、インフラの刷新に取り組む。並行して、時代に合う住まいや暮らしの在り方について考えているところ。
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