谷戸山裾に沿った穏やかな一体感がある住宅街の路地に面して建つ木造二階建てです。
薄灰色の大きな切妻天井一室空間、寄りかかりたくなる柱、沿って歩きたくなる壁、腰を下ろしたくなる階段、雁行、かど、ふいに開く戸、向こうにのぞく奥行、よぎるもの、くぼみ、光、影、反射、色、肌理、そして霞のような灰色。そこに暮らす人と日本各地の手仕事による品々や道具、美術作品が邂逅する「まちかど」としての家ができました。
民芸や手仕事そして美術に造詣が深い共働きの夫婦が住む家です。多忙な毎日に対応する動線や間取りとゆったりとした空間的広がりの両方を実現しました。
2階に設けたLDKは屋根に沿って天井を張り上げた(棟頂部高さ3.5m)約36帖の大きな一室空間です。キッチンから本畳敷きの書斎まで約11メートルを見通せます。また開閉式のトップサイドライトによって心地よい風通しも確保しています。
紙師(和紙職人)遠見和之さんによる珪藻土入り和紙で仕上げた雁行する壁面が、立体的な間仕切りとしてLDKに生き生きとした表情をつくりだします。
外部から直接入れる土間床のアトリエを設けています。またアトリエに隣接した書庫も設けています。いつでも作品制作ができ、また作品の搬出入もしやすいようになっています。
敷地選びの段階からご相談を受け、計画候補地における建築可能な建物のシミュレーションを行うことで、土地購入の判断のお手伝いを行いました。またその過程で建て主さんが実現したいことや大切に考えられていることを共有することができました。
LDKの雁行する壁面は、表情豊かな肌理を持つ能登仁行和紙の珪藻土が漉きこまれた和紙で仕上げています。薄いベージュ色の和紙と薄桃色の和紙を使用しました。焼成前の珪藻土を漉きこむか、焼成されたものを漉きこむかで色が変わります。建て主さんご夫婦で紙師(和紙職人)である遠見和之さんを金沢・能登に訪ね、実際の和紙を確認すると共に、遠見和之さんを能登から建設現場へ招き、張り上げ作業も依頼したものです。設計者と建て主と遠見さんとでつくりあげた唯一無二の壁面です。壁面が完成した際には、遠見さんを囲んで座談会もおこないました。
また建て主さんが全国各地で買い揃えたり、依頼して焼いてもらった焼き物などが幾つもこの家では使われました。工業製品にはない個性あるそれらの手仕事をどのように建物に組み込み、またどのように工務店さんに施工してもらうかについても、建て主さんや工務店さん私たちとで工夫しながら決めてゆきました。
まちかど
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