ある医師のための仮寓である。
単身赴任中の施主は、賃貸住宅の1室に暮らすこととなった。家で食事は摂らずテレビも見ないという生活スタイルはミニマリズムを想起させたが、単純に装飾的要素を削ぎ落すのではなく、限られた空間や物質の中にも豊かな世界観を作り出すことが肝要である。
それを狙って実践するのは至難の業であるが、インテリア設計におけるブリコラージュに可能性があると考えた。Bricolage(ブリコラージュ)とは、その場で手に入るものをひとつずつ紡ぎ合わせながら、全体として新しい空間性や世界観を獲得する手法のことである。
設計者には家具や照明、雑貨等に対する総合的な知識量や、それらを創造的に組み合わせる直観力が問われるわけであるが、ミニマルな空間設計は歴代の建築家やデザイナーが格闘してきたテーマでもある。そこで、彼らの哲学に基づくプロダクトを1つ1つセレクトすることで、画一的な設計論や価値観にとらわれない空間を生み出せるのではないかと考えた。
膨大な候補の中から施主と共に取捨選択を重ね、"人類のための普遍的なデザイン"を掲げたPiero Lissoniのシェーズロングや、構造的な合理性を求めつつ曲線で優美な造形を得意としたEero Saarinenのサイドテーブル、最新素材や技術のリサーチから開発を続けるPaolo Lucidi & Luca Pevereのシーリングライトなど、場所も時代も異なるデザイナーのプロダクトが採用されている。
デザイナーの理念にまで立ち返ってアイテムを誠実に選んでいく過程を通して、施主の嗜好を深く理解できたことに加え、納期や寸法の制約等から、当初意図していなかった偶然性も取り込まれている。
実は先日、書籍を並べられるコンソールテーブルのセレクトも追加で依頼された。
これからも少しずつ集積される家具がこの部屋を育てていく予感がある。
ミニマリストのためにセレクトした黒色基調の家具
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