階段に書棚を造作することで、縦動線を暮らしを彩る要素に昇華できないだろうか。そのような思索から設計を始めた。
この建物は、新宿区市谷薬王寺町の狭小敷地に建つ、2住戸からなる長屋の賃貸住宅である。
都市型の狭小住宅において居室の面積効率を求めると、階段は邪魔なものとして隅に追いやられ、最小寸法で閉鎖的に設置されてしまう。
しかし、本来階段の使い方は移動に限定されるものではない。むしろ、LDKや水回りのように各室の用途が固定されがちな住宅の中で、階段は柔軟に使える貴重な余白空間であると考えた。とりわけ、住まい手が予め決まっていない賃貸住宅では、そのような"遊び代"を確保することが生活の豊かさにつながる。
この長屋では、階段を幅広で開けた形状とし、側面に書棚を造り付けることで、本を読んだりお気に入りの小物を飾ることができる空間としている。
フローリングや建具、クロス等は白基調で統一し、チーク材の書棚を主役に据えた。
階段の勾配に合わせて配置された書棚は、安全性に配慮して各箇所4段までの高さとしているが、この書棚のリズムは自然と人の視線を先へ導き、上下階を立体的に接続している。
階段の位置は玄関から入ってすぐの場所とした。廊下面積を減らす工夫でもあるが、玄関土間の上がり框や外構のステップと段差を連続させることで、階段の柔軟な使い方が住まい全体に敷衍することを狙っている。
本や小物で彩られた棚は、下から見上げると美しい模様のような浮遊感をまとう。
ここに住まう人には、書棚に個性を表現しながら長屋全体を自由に使ってもらえれば嬉しい。
造作家具の書棚
外装材の左官塗り
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