計画地は、車一台がやっと通れるほどの細い坂道を登った先の斜面にある高低差のある。その昔、みかん畑であった所を開拓し造成したのであろう。進入に多少の不便を感じるが、それをものともしない富士山を臨む眺望が最大の魅力の土地であった。
住まい手は県内別所で開業医をされており、当面は生活拠点はそのままに、今回の計画は、家族や仲間と週末を過ごすための住宅である。二度目の自邸建築ということもあってか、家づくりに気負いはなく、この家の果たすべき役割(要望)と、住まい手がこの土地に立った時の直観から発せられる閃きをおおまかに聞き取りつつ、それらを五感を満たすべく具現化していくことが設計のカギとなった。先ず、この景色との関わり合いの動線。高低差のある土地の一番下に門戸を設け、囲むように施した植栽の間をくぐり抜けるように階段を上って来る『閉』のアプローチから、富士山を望む『開』の大空間へ入っていくことで、五感も、もっと言えば第六感までもが開放されていくようなイメージがもてる演出をした。
次にゾーニング。解き放たれた空間で、それぞれが心からくつろげるよう、パブリックとプライベートの心地よい距離感を大事にした。寝室などの完全なプライベート空間は明確に分離させ、パブリックスペースにも、北東のメインの大開口の他に、南西への開口も設け、四季の趣を楽しめる庭を配すなど、様々な表情をもたせることで、つながった一つの大空間の中であっても、各々の居場所やコーナーが生まれるよう配慮した。
私の提案した間取りそのものは住まい手の要望と必ずしも一致してはいなかったが、すんなりと受け入れ、ご自身のものして頂けたのは、この土地の持つパワーに同じようにインスパイアされたに違いないと感じている。
久能山に連なる山の北斜面に位置する土地ということで眺望を期待してはいたものの、実際に現地に立ち、開けた視界の先に飛び込んできた富士山の雄大な姿にくぎ付けになった。まるでこの土地と向かい合って座っているようだった。
清水港を擁する海岸線、そこから広がる大海原、遮るもののない空の景色は、想像をはるかに超えた素晴らしいもので、これらと対峙する空間の構想が次々に沸き起こってきたことを今でも鮮やかに覚えている。
松下さんには、日常の生活の中に非日常を体感することが出来る素晴らしい住宅を設計・建築して頂きました。当初、私達が思い描いていたイメージを含みながら、それを遥かに超えた住環境を造って頂き感謝しております。週末住宅とのコンセプトで計画しましたが、余りの住み心地よさに今では生活の拠点がこちらに移りつつあります。
唯一不満な点は、この家にいると好きな旅行に出かける必要を感じなくなったことでしょうか。
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