地方都市に多く眠る古いアパートやビルを住まい手に合わせてカスタマイズ。そんなリノベーションの可能性を紹介している「リノベのススメ」(『コロカル』で連載中)より。
食・クリエイティブなど、多業種が集まる場に
「はたらく場所をつくろう」
自営の仲間との雑談中、あるときそんな話になりました。
宇都宮には、食べる場所、飲む場所、遊ぶ場所はそこそこあるし
居心地のよい気のきいた場所づくりがなされている。
住む場所の選択肢も増えてきてるし、その質も上がってきている。
しかし、はたらく場所がまだまだ足りない。
これはおかしいんじゃないか。
だって、ほとんどの時間をはたらいて過ごしているはずなのに
はたらく場所についてはおろそかになっている。
はたらくことは、国民の三大義務のひとつだと定められている。
義務的にはたらくのに環境うんぬんなんておこがましい、
ということなんでしょうか。
近年は、労働条件もだいぶフレキシブルになったし、
覚悟さえあれば自由に起業できる時代でもある。
多種多様な仕事も業務内容も成立する大都市圏では
とっくにはたらく場所に気をつかっているし、
より便利で快適なオフィス空間を求めている起業家たちは多い。
一方、地方都市・宇都宮で不動産業も営む私のところへは
ここ数年、オフィスを探しているお客さんは、ひとりも(!)来ていません。
こりゃまずい。営業所の撤退は別にいいとして、
新規の起業さえ起こってないんじゃないか。
という心配はありましたが、
実はデータ上では宇都宮市内の起業数はむしろ増えているらしい。
ホントか? という疑いは残るものの、
ではなぜオフィスを探している人が全くいないのか。
まわりの人を見回してみました。すると答えは簡単。
皆、自宅兼オフィス(俗に言うSOHO)で仕事をしているんです。
確かに、家賃が安くて広めのところに住めるこの栃木県。
別個にオフィスを借りるよりは安上がりでしかも落ち着いて仕事もできますしね。
しかし、個人事業者同士が集まれるワークスペースがあれば、
よりよい仕事が生まれるのではないか。
自宅でこもって仕事をしていたのではせっかくの起業もムダに終わってしまう。
仕事は、情報とその交換からいつもいろいろなアイデアが生まれている気がする。
多業種の情報を自然と共有できる「はたらく場所」の存在が
それらの起業を成長させ、
いずれはそれぞれの面白いオフィス空間が生まれていくのではないか。
ということで、早速物件を探すとJR宇都宮駅近くにこのこの空き倉庫がありました。
非常にミニマルな佇まいですが、中は3フロアもあります。
ということは、
1フロアをフリーアードレスのデスクスペースにして、
もう1フロアをミーティングスペースにできるな。
じゃ、残りは?
そうだ、はたらく場所にはカフェがほしい。
飲食店もオーナーにとってはひとつのはたらく場所。
独立したい店主の卵が腕を試せる場所にしてしまおう。
そんな想いに共感した3社にて恊働し、
プロジェクトがスタートすることになりました。
3社それぞれの担当は、こんな感じ。
運営:マチヅクリ・ラボラトリー 村瀬正尊
飲食監修:日光珈琲・饗茶庵 風間教司
施設監修:株式会社ビルススタジオ 塩田大成
施設名はSOCO(ソーコー)。
SOHOでなく、SOCO。もちろん、ダジャレです……。
それくらいゆるい決めごとだけで賃貸契約を結び、工事を始めました。
電気設備工事など、必要なところはプロに依頼しつつ、
基本はもちろんDIY。
猛暑のさなか、サウナのような室内で壁を塗り、
棚やワークテーブルを皆でつくり、最後はBBQをして帰る。
さらに、使う家具類を探してヤフオク巡り……。
そんな日々を過ごしました。
そして3か月後。
1階にテストキッチンスタジオ、2階と3階がコワーキングスペースとなった、
「SOCO」がオープンしました。
オープニングには渋谷co-baの中村真広さん、
上田市ハナラボの井上拓磨さんという同業先輩方に来ていただき、
トークイベントを行い、花を添えてもらいました。
そして日常へ。
まず、キッチンスタジオ。入居期間は半年〜最長1年とし、
その間にメニューや経営の腕を試し、次のステップへの準備を行います。
第一弾入居者は関西や県内のカフェにて腕を振るった「HAPPY FIELD CAFÉ」が入り、
重ね煮のハンバーグなどの人気メニューが生まれたり、
クセの強いワインをお客さんへ勧めてみたりと、ファンが通うお店となりました。
2014年3月からは次の入居者が決まり、イタリアンベースのお店がスタートします。
続いて、2階と3階のコワーキングスペース。
月契約かスポット利用の会員制にしました。
月契約者は現在まだまだですが、
スポット利用会員は100名弱とまずまず。
利用者は現在IT、WEB制作系の方が多く、スポット利用だと建築・住宅系の方がいたり。
利用者さんに話を聞いてみました。
経営コンサルティング、ウェブサイト制作を手がける、
株式会社OPEN forの代表・五十嵐潤也さん。
「独立にあたり安価なオフィスを探していたんです。
値段だけでは入居に耐える物件がいくつかあったものの、
場所や居心地、何よりコワーキングという可能性に惹かれ、利用しています。
良い所は他の入居者に気軽に意見を聞けることです。
検索すればすぐわかるような他愛もない知識から、デザインに対する意見だったり。
どうしても1社だけで考え込んでしまうとわからなくなってしまったり、
できることも限られている上に、人脈にも限界があったり。
自分の席で“こんな職種の人いないかなぁ〜”ってつぶやいたら、
隣のテーブルから“いるよ〜。紹介する?”って声掛けてくれたこともありました。
カフェが1階にあるのもいいです。
仕事のあと軽く飲めるし、音楽が聞こえてくるのもいい。
オーナーとも異業種だけど同志として仕事の話を軽く相談できる。
また、打ち合わせに来てもらいやすい、という効果もありますね。
あとはもっと入居者が増えれば間違いなくお互いのメリットも増えると思います。
デメリットは、吹抜けを通して良い匂いがしてくるので、お腹がすいてしまうことかな(笑)」
五十嵐さんたちはここで「Cafe Hakken」というカフェ検索アプリを開発しました。
開発の際、1階カフェのオーナーに意見を聞いたり、
デザイナーでもあるSOCOスタッフに依頼をしたり。
制作チームは男性4名。しかしユーザーは女性が多いはず。
その時に他入居者の女性の意見を気軽に聞ける環境も幸いしたとのことです。
その他に、入居者さん同士や外の人との交流を図るため、さまざまな企画が行われています。
>「PechaKucha Night Utsunomiya」
「PechaKucha Night」とは、2003年より六本木のSuper Deluxeで始まり、
今では世界400余りの都市で行われている、1人20枚のスライドを20秒ずつ、
合計400秒でプレゼンテーションするというシンプルなルールで行われるイベントです。
これからの栃木を創造してゆく人たちと出会い、繋がる機会をここで設けました。
>「Green drinks Utunomiya」
「Green drinks」とは東京やニューヨーク、中国からボツワナまで
世界の800都市以上で開催されているグリーンやエコをテーマにした飲み会のことです。
栃木県、宇都宮市をもっと知り、そしてつくり出すための飲み会をここで開催しています。
ここまでは起業家としても
「そうだよね、ネットワークが広がり、仕事に繋がる出会いの機会になりそうだよね」
というイベントだとは思います。
しかしそれだけにあらず。
ここではマルシェまで、開催してしまっています。
>SOCO MALL
コワーキングスペースを会場にマルシェを開く。
なんなんだそれは。
いや、これも栃木で新しいはたらき方を探す方々を応援するための機会です。
デスクワーク系だけではなく、
例えば、自分の手仕事やサービスでビジネスを考えている人が出店します。
服飾、雑貨、お菓子はもちろん、ネイル、はたまた不動産……。
さまざまなジャンルのはたらく人たちがここに集まります。
ちなみに、次回は3回目の開催。
3月16日(日)11:00〜16:00にSOCOが開放されます。
このように試行錯誤しながらも
ひとつの思いつきと空き倉庫が出会い、いろいろなことが動いています。
たとえ今はこの地域にはたらく場所の需要が少なかったとしても、
空いている物件に僕らの想いをのせて整備し、
ひとつの目に見える場所をつくりだす。
つくってしまったら、あとは覚悟を決めてやるしかない。
「ここはまだまだこれから」
そう思い込んで仕掛けを継続していきます。
writer’s profile
Taisei Shioda
塩田大成
しおだ・たいせい●栃木県宇都宮市生まれ。株式会社ビルススタジオ代表取締役。建築設計そして不動産のみならず、界隈のデザインを含め、「場所づくり」を生業とするが、実はただの物件好きで貧乏性のお節介さん。
http://www.met.cm/
information
ビルススタジオ
住所 栃木県宇都宮市西2-2-24【map】
電話 028-636-5136