延床面積10坪の、とても小さな住宅です。
線路の高架化工事に伴う用地買収後に残った、9坪弱のくさび型の敷地に建ちます。
お施主様は分筆前の、南側道路部分を含めた土地に建つ住宅に長く住まわれていました。
「この場所に住み続けたい」という強い想いから、分筆し建替えることを決断されました。
南側道路は高架を作る間一時的に線路が敷設されるため玄関が設けられず、北側は条例により外壁の後退を求められました。室内は動線空間を最小限としたい。自ずと、建物北側をアプローチとすること、北側中央の玄関を入るとそこが既に建物全体を貫くらせん階段の一部であること、住宅内のスペース同士をそのらせん階段が直接結ぶこと、が決まりました。
各スペースの極端な小ささ(ダイニングキッチンは約4畳、リビングは約2.5畳)とらせん階段の大らかさ(こちらも約2.5畳)によって、両者の主従関係はあいまいなものになります。各所のデザインはそのあいまいさを強化するように決定していきました。階段まで伸びる各スペースの床仕上、リビングに伸びソファ化する踏板、階段が収納や玄関といった別の機能を兼ねること、常に階段の先に別のスペースが垣間見えるような構造や踏板や家具の在り方。
結果的にスペースと階段という区別を超えて、小さなスペースが見え隠れしながら連なる一室空間的な住まいとなりました。極小のスペースに身体を親密に包まれながら、同時に家全体に居ると思える感覚。そんな「小さな広大さ」を実現しようと試みています。