築40年のマンションの専有面積70㎡弱の住戸を、夫婦と子ども一人の住まい+夫のオフィスとして改修する計画です。
住戸は5階建て最上階の角部屋で、南北東三方に窓を持つものでした。典型的な3DK振分タイプの間取りだったのをスケルトンに戻した上で、RC耐力壁を境に北側を玄関+オフィス+水回り、南側を住まいの空間として再編成しました。
住まいの空間は中央に寝室を置き、その周囲に配置したキッチン、リビングダイニング、クローゼット、収納、デスクスペースなどの異なる居場所を回遊できるようにしています。それによって、姿は見えないが気配は互いに感じられる住人同士の距離感を作り出しています。同時にこの回遊性は三方の窓から取り込んだ光や風を住戸全体に回す上でも効果的に作用しています。寝室上部はロフトとし、子どもの遊び場や収納として使っています。
以上の平面計画を、壁で仕切られた部屋群としてではなく、かといって全てがつながり合った一室空間としてでもなく、住人が状況に応じて能動的に調節可能な境界面によって実現することを考えています。それによって住宅内に巻き起こる個々人の様々な活動や気分、人によって好みの異なる光温熱音環境が心地よく共存する状態を目指しました。設計にあたってはこの調節可能な境界面、すなわち「建具」の開発に注力しました。
光や風を柔らかく通し視線や気配を細やかに制御する新しい建具によって、間取りを超えた環境の伸び縮みや、それによる階調豊かな暮らしの実現を試みた計画です。
写真は全て©Masao Nishikawa