東京都杉並区に建つ築60年の木造住宅の耐震改修である。
既存建物は、東京都区部ではめずらしく周囲に隣接する建物がない敷地に建つ平屋の住宅であった。部屋が小分けにされていたため風通しが悪く、周辺環境を生かしきれていない印象があったが、施主の叔母が長年暮らしたその住まいは、白と深緑色を使ったかわいらしい外観や、大工によって丁寧につくられた室内の造作、住み手によって集められた家具や照明など、魅力的なもので溢れていた。建替えではなく改修を行い、施主が住み継ぐことになった。
改修に際してのポイントの1つは、住まい方を引き継ぐことである。大学で音楽を教えていた叔母がレッスン室として使用していた応接室は、施主が仕事の来客を招くこともできるセミパブリックなリビングとし、道に面して人が集う情景を引き継ごうとしている。また、以前は応接室と隣接しながらも分断されていた住まいの場所を、あえてコンパクトにして敷地の奥にまとめ、間に半屋外のテラスを設けることで、パブリックな場所とプライバートな場所が適度に切り離され、時には一体化する住まいをつくり出そうとしている。
2つ目のポイントは、既存住宅がもつ魅力を最大限に引き出すことである。閉じがちだった既存住宅に光と風を取り込む「風窓」を設けることで、開かれた周辺環境と繋がる開放的な住空間を生み出そうとしている。また、白いメッシュを緑色の木枠で挟んだ簡素なスクリーンである「風窓」が加わることで、既存住宅に残された家具や造作の色使いや質感が際立ち、新旧の意匠が互いを引き立て合う空間が生まれるのではないかと考えた。
住み継ぐことでしか生み出せない、時間の連なりを感じさせる住まいとなることを意図した。
資料請求にあたっての注意事項